『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』の発売を記念し、2月中旬、永瀬正敏さんご本人が登壇してのトークショーがTKPシアター柏で行われた。その風貌や役柄から印象づけられている「クールさ」とは見事に裏腹に、場を気遣ってジョークを言い、「ありがたい」という言葉を連発する姿は、まったくもって「温かく、まっすぐなひと」。映画俳優として、ひとりの人間として、あまりに正直に生きている永瀬さんが発する言葉は、会場に集まった全員の胸を、やはり「温かく、まっすぐに」撃ち抜いてしまった。 聞き手:青木眞弥(『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』編集者) 取材日:2014年2月16日
『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』、ようやくできましたね。永瀬さんには、発売ギリギリまでチェックいただきました。
何せ30年分ありますから、ね。
『アクターズ・ファイル』というのは、1冊につきひとりの俳優さんをフィーチャーするシリーズなんですけれども、初めに出たのは1999年の浅野忠信さんのもの。実はそのとき、最初は永瀬さんにオファーを出していたのですが、断られました(笑)。
ええ、あの、すみませんでした……でも、当時は「まだまだ振り返れない」という感じだったんですよね。でも、浅野がやってくれたからいいです(笑)。
永瀬さんのものは、今までの『アクターズ・ファイル』の中で最も分厚い。400ページですからね。
フィルモグラフィのページの分厚さもすごい。自分が覚えてない部分もいっぱいありました。「俺の(出演作)じゃねぇんじゃねぇかな」と今でもちょっと思ってる(笑)。
それらを振り返りながら、合計約25時間もインタビューさせていただきました。
ようしゃべったね、俺も(笑)。こんなにしゃべったことないから、恥ずかしいですけどね……色んな人に迷惑かけてないといいけど。
それぞれの映画のことについては、取材の最中に思い出している感じでしたか。
そうですね。忘れちゃってるんですよね。妻夫木(聡)や(松田)龍平君の『アクターズ・ファイル』を読ませていただいたんですけれども、「よく覚えてるなぁ」と思って。
永瀬さんは30年分ありますからね。その錚々たる出演作の中にもエポックメイキングな作品がいくつかありますが、やっぱりデビュー作の「ションベン・ライダー」が、永瀬さんにとって非常に印象に残る作品ですよね。
別格と言いますか……そこが始まりなので、ちょっと違うところに置いている感じです。相米(慎二)の親父もいなくなっちゃったし。この作品に関しては、色んなことを鮮明に覚えているんですよね。しかし、「ションベン・ライダー」って……何であんなタイトルなんですかね(笑)。高校でメチャクチャ笑われましたからね。外国で、プロフィールに必ず乗っけるんですけど、“ P.P. Rider”ってね……どうなんでしょうかね(笑)。
撮影中のエピソードについては、皆さんには本をお読みいただければと思いますが、公開の際の、舞台挨拶のことなど、覚えていらっしゃいますか。
公開初日、プロデューサーの方や演技指導の方と一緒に、車でいろんな劇場を回ったんです。どこもすごく人が並んでいると思ったら、2本立てで同時上映の「うる星やつら」の映画のほうが目当てだったようで、「アチャ」と思った記憶がありますね。舞台挨拶については、本当に初めてだったので、緊張しすぎて何も覚えてないです。
今日改めて「ションベン・ライダー」を観たんですけど、荒々しいエネルギーみたいなものを今でも感じました。
僕はちゃんと観返せてないんです。鈴木(吉和)君が演じた「デブナガ」が、雨の中立ち上がって、というシーンがありますが、それ以降、もう観られなくなるんです。色々思い出してしまって。ブツブツ切られているので、意味の分からない部分もあります。本当は4時間半の映画ですからね。
有名なエピソードですが、元々本作は4時間超で、あまりにも長いので、2時間弱に編集し直した。ただ、その幻の4時間版を観た人は皆、「すごい」と言う、と。「どこかにそのフィルムがあるんじゃないか」と言われてますけどね。
あればいいんですけどね。どこ行っちゃったんだろうな。