『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』の発売を記念し、2月中旬、永瀬正敏さんご本人が登壇してのトークショーがTKPシアター柏で行われた。その風貌や役柄から印象づけられている「クールさ」とは見事に裏腹に、場を気遣ってジョークを言い、「ありがたい」という言葉を連発する姿は、まったくもって「温かく、まっすぐなひと」。映画俳優として、ひとりの人間として、あまりに正直に生きている永瀬さんが発する言葉は、会場に集まった全員の胸を、やはり「温かく、まっすぐに」撃ち抜いてしまった。 聞き手:青木眞弥(『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』編集者) 取材日:2014年2月16日
この本では、関係者インタビューも、色んな方にお願いすることができました。永瀬さんが国外の映画に参加されてきた関係で、今回はジム・ジャームッシュ監督など、海外の方々も多いです。連絡先を調べるのが難しいこともありましたが、連絡を取ると皆、非常に快く受けてくださいました。その部分は読んでいただけたんですよね?
はい、緊張しながら読ませていただきました。ありがたいことを書いていただいたので、うれしかったです。また、ちゃんとお礼しないと。
最初、「ミステリー・トレイン」や「コールド・フィーバー」のプロデューサーのジム・スタークさんが「アンケートならOK」と言うので、2、3の質問を送ったら、長文の原稿が返ってきた。
僕、彼の家に少し住んでたので、色々僕のことを知ってらっしゃいますからね。
ジャームッシュ監督も、「時間がとれたときに取材を」ということで現地にいるライターの方にお願いをしていたら、前日の夜に「明日だったら大丈夫だ」という連絡が来て、取材をさせていただいたんです。監督は今、永瀬さんのために新しいストーリーを書いてらっしゃるんだそうで。
そうですね、実現するといいんですけどね。彼は一から自分の手でコツコツ映画をつくる人なので、時間がかかるのでね。
「戦争と一人の女」の井上淳一監督も「もう一度やりたい」とお話していただいたのを取材した後、実はもう、次回作もご一緒されている。去年末の撮影だったとか。
はい。12月30日まで撮って、31日に東京に帰ってきましたからね。
「いきもののきろく」という作品ですね。もう2月22日から名古屋で公開されるそうですが。
はい。名古屋にある中川運河を舞台にした、何人かの監督さんが参加されているオムニバスのうちの1本です。まだ僕も完成版を観てないです。
フリドリック・トール・フリドリクソン監督にもインタビューをお願いしていたら、たまたま去年の東京国際映画祭のときに、プロデューサーとして来日されるということで取材させていただきました。本の中でもお話されてますが、永瀬さんは、こうした方々に出会う運のよさを持っていらっしゃる。
僕はもう、今日いらっしゃる皆さんも含めてですけど、出会いだけが自慢できることなので。他に何もないんだけど、出会いにだけは恵まれています。
海外の関係者インタビューで言うと、現地でもこれから公開される新作の台湾映画「KANO」のプロデューサーのウェイ・ダーションさんとマー・ジーシアン監督にも取材させていただきました。永瀬さんは来週、台湾に行かれるとお聞きしていますが。
そうですね。ちょっと、いろいろと恥ずかしいんですよね……。
どうしてですか?
何か、イベントが壮大なんですよ。怖気づいちゃって、逃げ出したい。嘉義市という場所で行われるんですけど、嘉義駅から、街の中心にある有名な噴水をぐるっと回り、会場である球場まで、オープンカーでパレードを……(笑)。どうすりゃいいんですかね。映画の中でもそういうシーンが出てくるんですよね。あと、まだ本当かどうか分からないんですけど、台湾のプロ野球球団のほぼ全選手が、一緒に歩くらしいんです(笑)。近藤さんという、松山市出身の実在の監督の役をやらせていただいたんですけど、当時の高校の教え子さんたちも何人かいらっしゃって、全員で球場まで……。
市とか、台湾の野球界を挙げてのイベントということですよね。
いや、どうすりゃいいんですかね(笑)。芝居だったらできるんだけどな。ありがたいんですけど、ちょっと恥ずかしいですね。
「KANO」はいつ撮影されたんですか。
おととしから去年にかけてです。
それだけ撮影期間をかけるほどの大作、ということですね。
色々とビックリしましたよ。甲子園のシーンは甲子園で撮るんだろうと思ってたんですけど、1931年の話なので、当時と今とでは建物のかたちが違うから、ダメなんですよね。そうしたら、「つくったよ」って言うんです。あと船のシーンがあって、船の上側とか撮る予定だったんですけど、それも「つくったよ」って。街までつくりますからね。久々に、あんな撮影を経験しましたね。エキストラの方も毎日600人ずついらっしゃって。すごかったです。
役づくりでは、普段の永瀬さんだと、体を研ぎ澄ますというか、やせる役の方が多い中、野球部の監督役ということで、逆に、太って臨んだそうですね。
そうですね。「彌勒 MIROKU」と「戦争と一人の女」をやっていて、ウェイトを落としすぎちゃって、なかなか戻らなくて。向こうに行ったら野球部の子たちが皆、シュッとしてかっこいい。背もでかいですし。威厳を出そうと思って、はじめてウェイトを増やして演ったんですけど、この年になってくると戻すのが大変ですね(笑)。