『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』の発売を記念し、2月中旬、永瀬正敏さんご本人が登壇してのトークショーがTKPシアター柏で行われた。その風貌や役柄から印象づけられている「クールさ」とは見事に裏腹に、場を気遣ってジョークを言い、「ありがたい」という言葉を連発する姿は、まったくもって「温かく、まっすぐなひと」。映画俳優として、ひとりの人間として、あまりに正直に生きている永瀬さんが発する言葉は、会場に集まった全員の胸を、やはり「温かく、まっすぐに」撃ち抜いてしまった。 聞き手:青木眞弥(『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』編集者) 取材日:2014年2月16日
今後される仕事に関して教えていただければと思います。公開作で言うと「KANO」や「いきもののきろく」ですが、今はまだ話せない新作もありますか。
何で言っちゃいけないんでしょうね。何となく分かっちゃいますよね。
今って、外でロケをしていると、すぐ情報が拡散される。皆さんのほうが情報のキャッチが早いですからね。
今撮影中の作品が終わったらすぐ、3月の半ばから京都で撮影があります。
それは言ってもいいんですか?
それはね、監督が「大いに宣伝してくれ」って言うからいいと思います。またご縁があって、京都造形芸術大学の学生たちと「彌勒 MIROKU」を撮った時に、カメラマンをやっていた藤本(啓太)君という男の子が、北白川派の卒業生として初めて映画を撮るんです。最初で最後になるかもしれないですけど、その映画に出るんです。なかなかにしぶとい、おもしろい子です。僕が経験したことのない役なので、どこまでいけるかということと、原作がすばらしいことがあって、「本気でやらなきゃダメかな」という風に思ってます。「二人ノ世界」というタイトルなんですけど、「彌勒 MIROKU」でご一緒した土居(志央梨)さんと一緒に、ほぼ2人でやるんです。海象さんが経営しているBAR探偵というのが京都にあって、隠し部屋があったりする、よく分かんないバーなんですけど(笑)、藤本君は、そこを1人で切り盛りしながら、「映画を撮りたい」という思いを持ち、「大阪蛇道」という映画のカメラマンもやったりしている。やっと、監督デビューできるんですよね。「台本を読んでくれ」と海象さんに言われて読んで、「おもしろかったですね」と言ったら「演っていただけませんか?」なんて丁寧に言われて(笑)。「僕でよければ」とお答えしましたけれども。
球場や船を作ってしまうような大作から、自分たちで資金集めをするような規模の作品まで、器にこだわらずにやられていますね。
昔からそうでしたね。「分かるひとが分かればいいだろう」というのには全く反対だった。お客さんに観てもらわないと映画じゃないじゃないですか。「そうなるようにがんばろうよ」というのは前から思っていましたけど。今回、藤本君の前に、酒井(麻衣)さんという方の、制作費7万円の映画に出ました。
「神隠しのキャラメル」ですね。
彼らが映画界の「未来」ですからね。「未来」と一緒に仕事をさせてもらえるというのは、逆に僕の方が光栄だと思います。「神隠しのキャラメル」は、夕張ファンタスティック映画祭に呼んでいただけるそうで。監督自ら「やりました~!」って電話をくださって。「来てもらえませんか?」と聞くので、「そんなに急に言われてもね」と(笑)。僕は撮影中だから参加できないですけれども、「皆がんばってるな」と思って。
横浜で「彌勒 MIROKU」の上映会に参加させていただいたとき、終わった後に永瀬さんが、出演されている女優さん、中には学生の方もいらっしゃったけれども、3人を僕のところへ案内してきて「これからもこの子たちをよろしくお願いします」という風に紹介してくださったのが、すばらしいなと思いました。
きっと皆、これからキネマ旬報社さんにはお世話になると思いますから。
名残惜しいですが、そろそろ終了時刻となります。永瀬さん、最後に『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』について、一言お願いします。
こんなに語ったのは、30年間で初めてだと思います。全部素直な言葉なのですが……誰かに怒られそうになったら援護してね(笑)。編集の青木さん、キネマ旬報さん、金原さん、荒木さんには感謝してます。こんなの出してもらっていい役者かどうかは分からないけど、ありがたいです。手に取ってくださる皆さんにも感謝してます。ありがとうございました。