海江田龍兵(長嶋一茂)は2年前に妻の泉に先立たれ、中学3年生の娘・あゆみ(北乃きい)と小学3年生の息子・鉄兵(小川光樹)を男手一つで育てている。バイクで配達する局員が多い中、今でもバタンコ(配達用の赤い自転車)での配達にこだわる堅物だが、その配達は迅速かつ正確。局長をはじめとする仕事仲間や街の人々の信頼も厚い。ある日あゆみは寮生活となる高校への進学希望を伝えるが、龍兵は家族は一緒に住むべきだと反対する。さらに龍兵が泉の三回忌を機に形見分けを親族に提案したことをきっかけに、龍兵とあゆみとの溝は深まる。そんな二人の様子を見かねた泉の母・園子(野際陽子)が、ある物をあゆみに見せる。それはまだ小学生だった龍兵が転校する泉に宛て、それから結婚するまでの16年間、二人の間で交わされ続けた古い手紙の束だった。離れ離れになった二人は、手紙を書き、受け取ることで、気持ちを通わせていった。そして、いつしか龍兵は、心待ちにしていた泉からの手紙を配達してくれた郵便局員に憧れを募らせていったのだった。龍兵の泉への愛情の深さと仕事への誇りを感じたあゆみが、3年間一度も足を運んだことのなかった泉の墓へ行く決心をする。一方、龍兵は配達中に顔なじみの老人(犬塚弘)が自宅で倒れているのを発見する。運ばれた先の病院で、看護師から老人のポケットに入っていた手紙を渡される。かつてその老人が語った、手紙が届くのは元気な証拠だとの言葉が龍兵の頭をよぎる。この手紙を待っている相手がいる、この手紙を届ければ絶対に助かると信じ、龍兵は宛先の住所を目指してバタンコのペダルを力強く踏み込んだ……。