俊足のアキレスでも、亀の歩みには追いつけない。古代ギリシャの哲学者ゼノンは、そう語った。美術好きで富豪の父(中尾彬)を持った真知寿(吉岡澪皇)は、絵を描くことが大好きな少年として育った。父の知人からも才能を褒められて、赤いベレー帽をもらった彼は画家への道を目指す。しかし、父の会社が倒産したことによって、真知寿の人生は暗転する。立て続けに自殺した両親の無念さを背負いながら、自立することを余儀なくされた。新聞配達や印刷工場で働きながら美術学校に通う真知寿(柳憂怜)は、ひとりの女性と出会う。完成した作品を画商の菊田(大森南朋)のもとに持ち込んでも良い反応は得られなかったが、バイト先の女性・幸子(麻生久美子)は真知寿の才能を認めてくれた。ともに貧しいながら、二人は結ばれる。絵画という芸術への高みを目指す真知寿の姿勢は、やがて前衛の方向へと傾いていった。仲間たちと無茶な表現を繰り返す真知寿。どんな犠牲を払っても、彼にとってアートとは生涯の目標となっていた。子供を産んだ幸子も、そんな真知寿を応援し続ける。やがて、娘のマリ(徳永えり)は高校生になっていた。すでに中年になった真知寿(ビートたけし)と幸子(樋口可南子)だが、それでもアバンギャルドな芸術表現を求めてやまなかった。菊田からは相手にされず、困窮する生活は幸子が支えていた。貧しさゆえに援助交際に走ったマリにさえ、真知寿は借金を申し込む。そんなマリの死をきっかけに、幸子も真知寿のもとから離れていった。何もかも失いながらも、亀のように芸術への道を究めようとする真知寿。歩みを止めなければ、アキレスにも勝てる。それが真知寿の信念だった。真知寿を見限ったはずの幸子との関係も修復される。二人は、これからも同じ人生を歩んでいくことの充実感と幸福を噛み締めていた。