魚河岸の市場で、男ばかりの仲買人にまじって、おえんは威勢よく働いていた。愛情のない結婚だったが、早く夫に死なれたあと、一人息子広志の成長を楽しみに二十年間、男の世界で生活を支えた。広志は河岸の天ぷら食堂の珠子と恋仲になり、おえんは二人の仲を認めたものの、いざ結婚となると息子を奪われるような気がして、はっきり承知できなかった。その頃ブラジルで成功した谷が観光団長として帰国し、おえんの姉光江に会った。谷は三十年前おえんと恋仲だったが、今の広志と同様、母親の反対で結婚できなかったのである。四年前に妻を失った谷は、できればおえんと再婚したい気持だが、おえんは息子の事で一杯だった。珠子の姉は腹を立てて妹を安夫と結婚させようとする。谷ほおえんのために用意した五十万円を養老院に寄附してブラジルへ帰った。広志は酒の上から安夫たちと喧嘩して負傷し、珠子は一心に介抱した。これを見たおえんは心が溶け、はじめて二人の結婚を許す気持になった。