秋葉原で2008年6月に起きた無差別殺傷事件で恋人の健治を失ったひかり(蓮佛美沙子)は、郊外から都心へ向かう電車に1人揺られていた。あの日を境に現実は遠のき、ひかりは健治と過ごした時間だけを糧に生きていた。家に引きこもり、1人で食事し、庭にパンジーを植え、育てる日々。しかし、優しく見守る母(根岸季衣)や高校の同級生まりあ(尾高杏奈)との何気ない会話の中で、少しずつ落ち着きを取り戻そうとしていた。緊張した面持ちで秋葉原駅に降り立ったひかりは、健治の面影を探して、彼が好きだった街を歩き始める。どこからともなく流れ込み、どこへともなく去っていく人の波。惨劇のあった場所を茫然と眺めていると突然、写真を撮らせてほしい、と女性カメラマン沙紀(中村麻美)が声を掛けてくる。健治に教えられたビルの屋上では、尾崎という若者(柄本時生)が、一緒に自殺しようと言い出す。録音技師を志望するひかりの心に、路上ミュージシャン(Quinka,with a Yawn)の歌声が響く。そして、メイド喫茶のスカウトマン修(田口トモロヲ)と、そこで働く桃(菜葉菜)。誰もが皆、屈折を抱えながらも必死に生きる術、自分にふさわしい場所を探し求めていることを知る。何かを吹っ切るように、再び歩き出したひかりは、健治を知る人間を探して歩き続け、ガード下に暮らす佑二(小林ユウキチ)と出会う。ひかりの話に耳を傾けていた佑二は突然、“これが現実なんだ”と言って、テレビに映し出された東日本大震災の被災地の無残な光景を指さす。佑二もまた、親と喧嘩して家を飛び出し、故郷を捨てた苦い過去を背負っていた。ひかりは自分に言い聞かせるように、佑二に語りかける。目の前のものすべてが現実であり、本物であり、それを受け入れること。そして“まだ、間に合うよ”と。2人は再会を約束し、佑二は故郷へ向かい、ひかりは健治と約束していた船に乗るのだった。