京の祇園の世界に育った年増芸者戸久には、この土地を嫌って京大に学ぶ文子と、好んで舞妓となった戸美葉という姉妹の娘があった。死んだ父の友人大館の紹介で、戸美葉は、東京から京大に学ぶ学生辻五郎を、一日京都・奈良に案内し、彼を慕わしく思うようになった。卒業を控えて、五郎の兄の会社に就職を頼む文子も、彼に友人以上の、人知れぬ心を抱いていた。しかし、姉妹は互にそれを知らない。巨額の金を積んで戸美葉を狙う丸権の若旦那の口説きも、五郎への思いをつのらせるばかり。舞妓姿と加茂川べりを歩くことを恥らう彼に、「この髷がいかんのどすか」と、元結をぷっつり切って見せる彼女だった。妹の心の人が五郎とは知らぬ文子も、この恋を励ました。卒業も間近に五郎は東京へ、そして戸美葉も大館の計らいで上京、夢のような湘南海岸のドライブ、青空の下の海辺で、二人は変らぬ愛を誓った。一方上京した文子の就職も、五郎の手でうまくいった。しかし、翌日の五郎の誕生日のパーティで、姉妹を待っていたのは、知らなかった皮肉な恋の宿命の悲しみであった。傷心の戸美葉は丸権と琵琶湖の宿に向った。けれども、崩れんとする彼女を救ったのは姉文子だった。古い舞妓の世界から妹を引上げるのは五郎の愛のみと知ってかけつけたのだった。加茂川の水ぬるむ春、文子の温かい心づかいに包まれて、五郎の待つ東京に向って京都を離れる汽車の窓には、涙に濡れた戸美葉があった。