五十の坂を越えながら今尚涙の名画を拵えている映画監督井上鉄風と親爺の芸術に心服しかねる息子の昌充、行動派の妹麻納の父子は、志賀高原のホテルで舞踊家神諏訪と娘の美[イ予]に行き合った。昌充は秘そかに美[イ予]の淑やかな美しさに心ひかれた。ところがその冬の或る夜、鉄風と諏訪の結婚披露が東京会館で催された。プロデューサーの鹿地、鉄風の家に同居している須賀輪、それに突然兄妹になってしまった昌充、美[イ予]、麻納達に見送られて、二人は新婚旅行に出発した。鉄風、諏訪夫妻は須賀輪が美[イ予]と麻納のどららを結婚の相手に選ぶか興味をもっていたが、気が気でない昌充は或日須賀輪に駈け引きを試みる。ところが麻納は美[イ予]が須賀輪を好きなんだとスッパ抜いた。しかし須賀輪の意中は諏訪にあった。しかも昌充の本心を知った美[イ予]は、昌充が好きだと言い出し、この華々しき一族の愛情の波は益々複雑にもつれてゆき、「須賀輪さんが結婚しない理由は私だって……」という諏訪の言葉に、遂に鉄風はブッ倒れ、一同は茫然とする。やっと一本立の監督になったばかりの須賀輪は「僕は凡ゆる事を常識で処理出来る人間になりたいと必死だったんですよ」と言い残すと、淋しげにこの華々しき一族のサロンを去って行った。じっと見送る麻納も美[イ予]も、そして諏訪までもが何故か淋しげであった。