序破急のメリハリを効かせた第1級のサスペンス映画
ネタバレ
緻密なプロットである。よく考えられて、隙がない。何回観てもやっぱり面白い。何回観たか覚えていない。
権藤邸応接間での重役たちの腹の探り合い。話し合いは延々と続いて、これが主筋であると普通は思う。話し合いが決裂して重役たちが帰っていく玄関先で、すれ違いに西部劇ごっこで走ってくる子供たち。このさり気ない点描が、その後の展開に全て意味を持って繋がっていく。子供たちが遊びの途中で、保安官と追われる者との役割を交代しているのを観客に見せる。主筋と思われた会社乗っ取りのおとなの行動の方は権藤(三船敏郎)と秘書(三橋達也)との間で大阪出張の話が着々と進んでいく。その合間に、子どもたちの点描が挿入される。追っかけるはずの保安官が全然追いかけてこないのを追われ役の子どもが「あんな保安官居ないよ」とぼやいている。何か変だ。既に主筋と見えたもの以外の何かが動き出している気配が漂う。一本の電話が掛かってくる。「あんたの子供を誘拐した」と。ここで本当の主筋が明らかになる。そして、子供たちの遊びで役割を変えていたことが物語の展開に大きな意味をもってくる。原作(エド・マクべイン)のユニークなアイデアはこの一点にある。
場面を権藤邸だけに絞った展開でほぼ50分、観客を密室に閉じこめておいて、特急こだまが疾走するダイナミックな場面で一気呵成に空間を開放する。静から動への急展開でいっそう爽快感が増幅して観客の気持ちを鷲掴みにしてしまう。話の内容(ストーリー)が面白いだけではない。話を進めるテクニック(話術)が見事なのである。
情報収集、捜査会議、記者会見と犯人の絞り込みが論理的に時にはユーモアを交えながら描かれていく。そして、最後の締めとして、大村千吉が手紙を持って登場し「竹内さんかい?」と白衣のインターン(山崎努)に手紙を渡す。このシーンをきっかけにして話は転調して、犯人が動き出し警察も動き出す。サスペンス映画として揺るぎない犯人追い込みのアクションシーンがここから始まる。いやもう、序破急のメリハリを効かせた語り口の巧さに酔わされる。何回も観る気になる所以である。