「天国」に擬えられ,「浅間台」と呼ばれる高台に住む権藤さん(三船敏郎)がいる.この権藤さんの自宅が序盤の主な舞台となり,続いて,開業間もない新幹線の「特急第2こだま」が西へと向かい,その車内が舞台となる.その後,警察署や横浜の町へと捜査員たちが繰り出し,舞台は拡散していく,そして後半,その権藤さんはきえ,戸倉警部(仲代達矢)を中心に物語は展開する.
権藤さんの家で床に這いつくばる警察がいる.犬なのかもしれない.河西(三橋達也)という男はフラフラしている.カーテンが閉められ,開けられる.そこには都市の風景が俯瞰されて見える.また,窓を開けると都市の音が聞こえてくる.外の音が入ってくるとすれば,それは電話である.ここは周囲を排除した上に成立した天国でもある,
ナショナル・シューズを作り,その機能と意匠を追求する 「おやじさん」と呼ばれる社長がいるらしい.靴と帽子のつくりの違いが権藤さんからプレゼンされる,そこにも天地のモチーフがうっすらと暗示されている,権藤さんの周りにも弱い者たちがいる,運転手の青木(佐田豊)と進ちゃんと呼ばれる息子である.この親子が誘拐に巻き込まれ,物語は動き出す,警察にも本部長(志村喬)のようにどっしりと構えた男もいれば,坊主のようなボースン(石山健二郎)のように実働部隊もいる.
時を告げるチャイムが鳴る.玄関チャイムが鳴る,電話のベルが鳴る.こうした音とともに,電話の通話内容が再現され,こだまから撮影した映像の再現され,手紙の再現により殺人が再現されようとしている.再現的なものは反復される.電車は揺れ,微細な往復運動が車両と乗客に伝わる.心音のように不穏な走行音がする,車両も密室であり,その密閉性が誘拐犯に利用される.鉄橋の音,すれ違う列車の音,それはいつしか権藤さんの心理とも連動し,顔を洗う権藤さんがいる,犯人は「正真正銘の畜生」と呼ばれている,
権藤さんは,世間から同情され,世論を完全に味方につけており,芝刈り機をひたすら動かしているが,警察は動いている.江ノ島と江ノ電が見える,腰越の市場にも捜査が入る.その別荘の中にヘロイン中毒がいる.黄金町では,麻薬中毒者たちが声もほとんど発することなく欲望だけになった動物のように蠢いている.ダンスホールでは踊りと音楽の喧騒があり,人々が漂っている インターンの竹内(山﨑努)を警察は泳がせ,罪に見合ったより重い罰を与えようとしている.警察たちはコミカルに様々な変装をしている,竹内のサングラスには,明るいものが白く反射して見えている.また,記者と連んで新聞記事を操作し,犯人を追い込む警察がいる,犯人である竹内は,電話以外で声を発していなかったが,声を出した途端に,彼は拘束されている.「俺はこれからが俺」と言う権藤さんと竹内は,ガラスと金網越しに対面している,その間にシャッターが降りてきて,幕が閉まる.