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鑑賞日 2025/10/05  登録日 2025/10/05  評点 91点 

鑑賞方法 映画館/東京都/ヒューマントラストシネマ有楽町 
3D/字幕 -/字幕
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沈黙が語る孤独

わずか90分ほどの作品だが、驚くほど退屈で、観る者に苦痛さえ与える映画だ。特別な感動もなければ、ドラマが何かを提示するわけでもない。後半でわずかに音楽が流れるが、それも効果音のように淡々としている。全く面白くない――そう感じる。

ところがである。
見終わった瞬間、不意に「17歳の瞳に映る世界」(2020)が頭をよぎった。あの映画もまた、ほとんどセリフがなく、少女の内面に秘められた秘密と苦痛を静かに描いていた。そう思い返すと、この映画が意図的に“語らない”理由が、ぼんやりと見えてくる。

ジュリーの沈黙と孤独とは何なのか。
新しいコーチのミッキーが、他の選手たちを集めてジュリーのサーブを褒める場面がある。ジュリーはそれを嫌い、ミッキーに異を唱える。彼女は目立ちたいわけではない。ただ、テニスをしたいだけの少女なのだ。だが実力をつけるほど、彼女は前のコーチであるジェレミーとの関係を断ち切らねばならなくなる。ジェレミーの教え子が自殺したという事実が、ジュリーの心をいっそう複雑にしていく。外見は大人びていても、心はまだ幼いままなのだ。

ほとんどセリフのないこの映画で唯一、感情の起伏があらわれるのは、クラス写真の撮影で全員が「ファック・ユー」と叫ぶ場面だ。ジュリーは成長の過程にあり、期待も高まるが、彼女の孤独は消えない。

ときおり登場する犬のマックスが、ジュリーの沈黙に寄り添うように歩く姿が印象的だ。彼女の心を唯一理解している存在のように見える。

大坂なおみが製作に関わった理由も、この映画の主題と無関係ではない。彼女自身がメンタルの問題に苦しみ、若い選手を支える立場にある。沈黙と内省を重ねる少女ジュリーの姿に、自身の経験を重ねたのだろう。

舞台がベルギーであることも、主人公の心情を象徴している。オランダから独立し、フランス・ドイツ・イギリスの狭間で揺れてきた国――他者に囲まれながらも自らの声を持ちにくい歴史を背負う土地だ。ジュリーがドイツ語の授業を途中で退席し、ドイツ語で説明を求められる場面にも、その象徴性がにじむ。
沈黙とは、言葉を失ったのではなく、語らないことでしか抵抗できない少女の選択なのだ。