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鑑賞日 2025/06/14  登録日 2025/06/14  評点 75点 

鑑賞方法 映画館/東京都/TOHOシネマズシャンテ 
3D/字幕 -/字幕
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映画愛に溢れる映画

冒頭の描き方が、この監督(主演も兼ねる)の映画への愛が伝わる。暗い部屋で光を追うシーンを見て、例えば「アマポーラ」を思い出す方もいるのではないか。外からの光にトランクの中からトルコに侵略される光景を見る時、光の周辺に小さな埃が舞う。このシーンでこの映画がきっと素晴らしい映画であろうことが想像できる。

チャップリンを愛した淀川長治先生の自伝にものぞき穴のシーンが出てくる。「遠くで見ると喜劇でも、近くで見ると悲劇」というチャップリンの名言は、主人公がつけられたあだ名からも映画愛が伝わる。そしてこの映画はサイレント映画の方式も取り入れている。

前半のシーンで地震が起きて刑務所の壁が崩れる。このプロットが実に巧妙だ。刑務所の壁が様々な意味をもつ。たまたま独房から見える崩れた壁の向こうに見える家族、そしてこの映画の重要なツールとして使われる絵画(アララト山)が刑務所の壁に描かれる。サブタイトルのコウノトリもまた壁の上から見下ろす。

全く連絡を取り合うことが出来ない冤罪で独房に入れられたアメリカ帰りのアルメニア人と、絵を描くことを政治弾圧で止められた刑務所の看守との見えない交流が最後の最後に感動を伝える。ソ連の弾圧禍の刑務所の物語は「ライフ・イズ・ビューティフル」と「ショーシャンクの空に」に重なり合う部分もあって見応え充分だ。

当時のアルメニアは、朝鮮戦争後の北朝鮮(夢の国)に帰った在日の方たちも同じではないか。「かぞくのくに」のように。マイケル・A・グールジャン監督(主演)の凄さはこれをコミカルに描くことだ。そして涙を誘う物語でありながら、最後の静かな終り方も実にセンスがいいと思う。