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国宝
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歌舞伎をライブで見たことがない者でも、この映画を見ればその迫力を目の当たりにすることができる。白塗りをするシーンから雪に変わり、花井半二郎(渡辺謙)が九州のタニマチにお呼ばれするシーンから美しい。ここで降る雪のイメージが主人公を生涯苦しめる。ラストシーン、「鷺娘」の舞台で見上げた風景と重なる。 何しろ、これほど運命の逆転が連続するドラマがあるだろうか。まさに血と汗と涙が混ざり合うような骨太のドラマ。そして「カインとアベル」を思い起こさせる運命の皮肉。昨今の目を覆いたくなるような陳腐で低予算の日本映画からは比べ物にならないクオリティ。吉沢亮さんも横浜流星さんもよくこれだけの演技を乗り越えることができたと感心する。ふたりとも素晴らしかった。 最も心を震わせたのは、育ての父花井半二郎が演じた曽根崎心中のお初をいちどは大抜擢された東一郎に取って代わって、糖尿病で足を失った半也が演じ、代わりに東一郎が徳兵衛を演じるが、お初が出した右足がボロボロになっていて、その足に徳兵衛が触れようとするシーン。「曽根崎心中」で徳兵衛がカネを貸した兄弟のように親しかった九平次。このふたりの関係もこの映画のふたりと重なる。敵対しながらも双子のように育ったふたりは、最後に愛を確かめ合うように同化する。憎しみが愛を熟成させたようにも見える。 半一郎あらため半二郎が人間国宝となった目の前に、京都祇園の芸姑に産ませた娘(瀧内公美さん)がカメラマンとして現れ、「どれだけの人を犠牲にして国宝になったのか」と問う。その問いに応じず主人公は見つめ返す。芸の道がどれほど過酷で、多くの犠牲者を出す芸術であることをあらためて認識する。 「サマーウォーズ」や「パーマネント野ばら」「八日目の蝉」などの奥寺佐渡子の脚本も見事だったと思う。
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