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聖なるイチジクの種
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ぶったまげた! 気がつけば映画のほとんどが密室劇で、時折挿入されるスマホ映像は現実で起きていることだろうか。冒頭、テーブルの上に散らばる銃弾、サインする男の手。この手はラストシーン(まるで「ターミネーター2」のラストのような)と重なり合う。ハラハラ・ドキドキ。何が起きるかわからない。 かつて「運動靴と赤い金魚」に心を奪われ、イラン映画の誠実さ肯定してきたが、今回はこの映画ではなく、映画の背景にある現実、そして命がけでこの映画を撮ったモハマド・ラスロフ監督に敬意を示したい。また、抗議運動のきっかけとなったマフサ・アミニさんに哀悼の意を評したい。 前半の密室劇から中盤のカーチェイス、ラスト砂の城で展開するかくれんぼのようなシーンなど見どころ満載だが、この飛躍はまるで黒澤明監督の「天国と地獄」のようだ。 イラン革命を経て支配する憲法を超える慣習法に支配される国で、20年以上も検察の仕事をしてきた父親に訪れる危機。頭の硬い父親が娘たちと反発しあう間に母親が仲裁に入る。国家と国民の対立がひとつの家庭の中で展開する恐怖。銃を失くして誰が犯人かというたった三人の容疑者を巡る拷問に近い状態に恐怖する。しかしこれは、イランで現実に起きていることなのだ。家族の中の疑心暗鬼は、社会そのものも同じ。 娘たちの友人が学生運動に巻き込まれ散弾銃を顔に受けた治療をするシーンや、要所で挿入されるスマホで撮られた映像は極めて強いインパクトを与える。特に散弾銃を洗面所に流し赤い血を母親が洗い流すシーンは、まるでわれわれがそれを何事もなかったように消し去ろうとする意識に符号する。見てみぬふりをする社会がここにもある。 イチジクの種が宿主を飲み込むようなイメージは、この映画の背景にある女性の開放運動と時代の変化を見事に重ね合わせるものだ。そのことを強く評価したい。心から感動した。
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