台湾の人間国宝である布袋戯の人形遣い・陳錫煌は、80歳を超えた今も世界各国で公演し、称賛を集めている。墨を摺る指先、キセルを燻らす恍惚した人形の表情、ダイナミックで軽やかな大立ち回り……繊細で力強い生命力にあふれた人形たちの動きを、陳錫煌の指先が創り出していく。70年代以降、現代風にアレンジされた布袋戯がテレビで人気を博すが、伝統的な布袋戯の観客は減っていった。台湾の伝統芸能を継承しようと奔走する陳錫煌の元には、フランス人のルーシーをはじめ多くの弟子が集まっている。しかし、薄れゆく伝承への焦りは日々募っていく。侯孝賢監督映画への出演で知られ、人間国宝であった偉大な父・李天禄の背中を追いかけ続けてきた。陳錫煌が人生の最晩年に至った今、生まれ変わったように渾身の力を振り絞り、守り伝えようとしたものが、見る者の心を揺さぶらずにはいられないだろう。