舞台上で、シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」が演じられている。終幕に近いクライマックス、第5幕第5場。そして終演。舞台上に全キャストが集まり挨拶する。観客はスタンディング・オベイションで大きな拍手を送る。観客席がはけて、照明も消され、俳優たちが引き上げていく……。6か月前。イタリア、ローマ郊外にあるレビッビア刑務所。ここでは囚人たちによる演劇実習が定期的に行われている。毎年様々な演目を囚人たちが演じ、所内劇場で一般の観客相手にお披露目するのだ。指導している演出家ファビオ・カヴァッリが今年の演目を「ジュリアス・シーザー」と発表。早速、俳優のオーディションが始まる。各々に、氏名、誕生日、出生地、父親の名前を二通りの言い方で言わせる。一つ目は、国境で、奥さんに泣いて別れを惜しみながら。二つ目は、強制的に言わせられているように。最初は哀しみを、次は怒りを表現する。そして配役が決定。シーザーに、麻薬売買で刑期17年のアルクーリ。キャシアスに、累犯及び殺人で終身刑、所内のヴェテラン俳優であるレーガ。ブルータスに、組織犯罪で刑期14年6ヶ月のストリアーノ。次々と、主要キャストが発表され、本公演に向けて所内の様々な場所で稽古が始まる。ほどなく囚人たちは稽古に夢中になり、日常生活が「ジュリアス・シーザー」一色へと塗りつぶされていく。各々の監房で、廊下で、遊戯場で、一所懸命に台詞を繰り返す俳優たち=囚人たち。それぞれの過去や性格などが次第にオーバーラップして演じる役柄と同化、やがて、刑務所自体がローマ帝国へと変貌し、現実と虚構の境を越えていく……。