奈美が琉球へ去ってまた夢を一つ失った佐々木小次郎は、島兵衛につきまとわれながら安芸の宮島までやって来た。そこで計らずも宮本武藏の剣法を見て、彼こそ将来自分の唯一の剣敵となる男だと悟った。岩国で高田又兵衛の槍と手合せをして知合いになり、小次郎は九州小倉の町に剣術指南の道場を開いて三年、岸流と称して門弟も多く集った。城主細川忠興に、御指南役として、家老長岡佐渡は宮本武藏を、有吉内膳は佐々木小次郎を推せんしている。そこで、武藏と小次郎と試合の結果、勝ったほうを指南役に正式に任命しようということになる。場所は船島、日取りは四月十そ三日辰の上刻と定められる。内わの前に宴をもうけて小次郎に膳妻を世話しようとするが、定めの通り従順に小次郎の召しを待っているかや、きのえ、さかゆの三人の娘たちを見て、彼はすぎ去った日の自分の悲恋を物語って聞かせ、自由な恋のよろこびと悲しさを教えてやった。そうした事から小次郎は兎彌に一眼合いたいと、試合を前に旅に出た。そしてキリシタンを信仰して百姓となっている東馬に会い、東馬の案内で教会堂で兎彌にも逢ったが、兎彌は神への信仰と小次郎への愛に見もだえするのだった。その兎彌もキリシタンとして牢獄につながれ、小次郎は兎彌を救いたいばかりに、試合のことも心にない有様だった。島兵衛は見かねて兎彌を牢獄から救い出して来た。小次郎はこれで心残りなく試合に臨めるといったが、時すでに遅く、用意周到な戦略を持った武藏のため、もろくも討れてしまったのであった。