昭和初年のころ菅原一家は東京近郊一隊をなわ張りとして勢力をふるっていた。親分松五郎の下には緋桜、梅若という子分があったが、最近売り出して男をあげている清吉という若者もあった。清吉は料亭の女お加代と相愛の仲だったが、梅若もお加代に惚れ自分のものにしようとたくらんでいた。困り果てたお加代は清吉に堅気になって、駆落しようとせまるが、ヤクザの魔力と後難をよくのみ込んでいる清吉は首肯しなかった。そのころ彼等にとって書入日である金源寺の祭礼が始まった。寺では宝物である黄金仏を参詣人におがますことになっていたがその仏を盗む悪計が緋桜と梅若の間でたくまれ、罪を清吉に着せようとしていた。清吉はヤクザ稼業から脚を洗うこと、お加代と一緒になれることを条件に二人の話にのった。だが盗んだ清吉に迫まるものは梅若がひきいる菅原一家だった。裏切られた清吉とお加代は、彼等の網目のようにはられた世間を逃げかくれ歩いたが、清吉は彼等の制裁から逃避する安全な場所刑務所を選び、まだ見ぬ自分の赤坊の幻を抱きながら意を決して警察へ向かった。三年後刑期を終えた清吉を迎えるのは梅若一味だった。又彼等の制裁を恐れた清吉は、出所一時間後梅若殺人犯人として再び鉄窓の人となった。かくて十数年は過ぎた戦後。悪事をはたらいて破門された緋桜は戦後のごたごたにうまく世を渡り桜井物産の社長として納まっていた。彼は場所代値下げの陳情に来た彼の支配下のマーケットの代表者の中に親分の一人息子信夫を発見し、彼の顔を立ててこの陳情を許した。信夫は復員してから真実目にくつ直しの店を出していた。加代の娘桑子は、母の許によりつかずズベ公になっていたが、信夫が菅原一家の血を引いていると聞くと彼を尊敬し始めた。信夫は桑子を善導しようとつとめたが彼女はうるさがった。そのころ刑期を終えた清吉は出所したが相も変らず待伏せているのは緋桜一味だった。黄金仏こそ彼等がねらうものだった。清吉は逃げた。加代と二人の生活資金として清吉の心にも黄金仏への誘惑があった。信夫は清吉を救ったが、遂に二人は緋桜の謀計に落ち込んでしまった。そのころ警察は数々の罪状を証拠に桜井物産を検挙し清吉もあやうく命をとりとめ、二十年近く隠されていた黄金仏の在所を白状した。清吉の心はようやく落つきをとりもどし信夫の店で桑子と二人で働き始めた清吉の疲れはてた顔にも明るい微笑がただよい始めるのだった。