就職の旅路にある寒川八郎は、行きずりの老乞食から見事な印篭を買い取った。それは「幸福の印篭」といわれるものであった。町はずれの居酒屋で無頼漢と喧嘩をし、お抱えを願おうとした主人と一足違いで逢えなくなる、八郎はがっかりして歩いていく。八郎はひょっとしたことからおヒゲの豪傑権兵衛と道中を共にする。ある町の居酒屋で権兵衛は美しい酌女お初ちゃんのことから悪評高い大串一家の雁九郎と喧嘩を始め、簡単に片つけてしまい、これを見ていた五斗屋親分は二人を客分として逗留をすすめた。その日から二人は酒、将棋、と気ままな生活がはじまった。がそれは退屈なものだった。だが八郎は毎日お初ちゃんに逢えるので楽しかった。それだのにお初ちゃんには大串親分にだまされて獄にある与吉という許婚があると聞き、八郎は牢番をだまして与吉を山小屋へ逃がした。八郎の初恋ははかなく消えた。その頃大串屋と五斗屋とが果たし合いをすることになった。八郎はこの馬鹿げた決闘を血を見ないで納めようと考えた。大串屋へ飛び込んだ八郎は嘘言をもって親分に永の草鞋をはかせ、乾分たちはあとを追って未明の町から姿を消した。一方八郎は役所へいって悪代官の不法を暴いて五斗屋へ逃げ込んだ。彼を追って捕手一隊がなだれこみ、五斗屋一家は慌てて逃げだした。八郎はお初ちゃんに「与吉は山小屋だ、達者でナ」と一目散に逃げた。何も悪いことをしないのに、逃れ逃れて数年間。変わり果てた八郎は今では地にひれ伏す乞食だった。同僚から、「悪事をしなけりゃ乞食だって幸運さ」といわれ、未練がましく持っていた「幸運の印篭」を谷間に投げた。月は経ち、年は流れた。村外れで猿廻しをしているのは八郎だった。そこで彼はお初ちゃんが今は与吉に捨てられていることを聞き、頬を輝かして居酒屋を訪ねた。お初ちゃんの瞳にキラリと涙が光った。長年探し求めた幸運が今ようやく八郎に訪れた。二人は無言で抱き合った。