窓越しに丸の内界わいの見えるビル街の、ある新聞社の一室。映画演劇の担当記者早坂三平は、今日行われる東京座の百万円クジの当選発表に出掛けるところだった。聞き込んだところでは東京座も、今度の興行を最後に、新興財閥に買い取られるということだった。舞台ではクジ番号を発表している。一体だれに幸運の矢がたつか、--一〇〇三八四--のネオンがともったが、だれ一人として申し出るものがない。その番号こそ、この小屋に百枚程割当てられたうちの一つなのだ。電気係神田老人の孫娘、案内係のみよ子だけが緊張した場内で足のふるえがとまらなかった。--百万円--彼女の手には固くクジ札が握られていた。今までのつまらぬ紙きれが、みよ子には何か恐ろしい生物のように感じられるのだ。神田老人はあずかったクジ札の、つかい道についていろいろな楽しい夢をえがくのだった。ところが神田老人がハッと気のついた時には、どこをどう探しても見当らないのだ。クジ札の紛失をみよ子につげた時、何故か逆にホッとするのだ。--やっぱり持ちつけん金などは持たぬ方がよい--とあきらめた途端、パラリと床に落ちたのは皮肉にも、そのクジ札だったのだ。もうだれにもかくしている必要はなかった。一同はその百万円を、身売りする劇場のために使うことに決心していたのだ。その特ダネをもった三平は締切間際の本社に急ぐのだった。