日曜日、望岳荘アパートでは止宿人達が寄りつどって相談の最中だった。それというのも、主人仙造がかみさんに逃げられてやけ酒をあおりブッ倒れ、その侭あの世へ行ってしまったからである。抵当に入ったアパートと、残された子供の勇太をどうしようか。結局、部屋代をためて逃げた連中から金を集めて廻ることになりその役目は旗に決った。行先は中国、四国。小松千代も一緒に行くことになった。その方面には慰藉料をとる相手が多勢いるから、かき集めて勇太に一部を寄附するというのだ。勇太を連れた二人は岩国、山口から萩へと廻った。萩で千代は婦人科医の箕屋と見合いをする破目になった。箕屋は千代の美貌に大乗気となり後をつけてくる始末。その箕屋を漸くまいた一行は、勇太の母と駈落ちした学生克三の家がある瀬戸田へ着いた。彼は胸の病いで寝ており、勇太の母の浜子も勇太に会おうとしなかった。二人は兄の築水に勇太を引きとって育てると誓わせた。これで旅行の目的は果したのだが、徳島に千代の処女を奪った憎い男がいるというので、助太刀がてら旗も同行することになった。町はちょうど阿波踊で大賑わい。旗は目指す順十郎の家に乗り込んで凄んだが、かえって恐喝の疑いで留置場へぶち込まれた。千代と順十郎の計いでやっと出られた彼が、宿へ帰ってみると「私の集金旅行はここで打切ります。順十郎さんは男の未亡人です。私もここらで身を固めます」という千代の置手紙があった。翌朝東京へ帰る旗を千代と順十郎が夫婦気取りで送るのだった。「ひでえことをしやがる」旗は貰った徳島名物の“やき餅”の包みを鳴門のうず潮の中にたたきこんだ。