都営住宅に住む笹山三吉は半年前に失職して以来赤ん坊のお守とレコードを聴くのが日課で妻のすず子がミシン踏みで家計を支えている。壁をへだてた隣の森下は夫の許を飛び出して年下の美青年志野と同棲している中年の美人で、毎日愚痴を云いに来る。すず子の友人原はお妾商売のインテリで三吉夫婦に贈物をするのが好きである。原はすず子を家政婦に世話したいと云ったが三吉は妻に話さなかった。すず子は仕立て物を持って実家へ行き、ついでに必要なお金を貰おうと思ったが、失業中の弟良の愚痴を云う母や出戻りのけちん坊の姉たか子には金の事は云いだせなかった。森下は今日も留守番の三吉に身の上話をしては泣いていた。すず子は顔さえ見ればお世辞ばかり云う志野が嫌いだった。原の手紙で家政婦の事を知り、すず子は三吉が隠していたのを怒ったが内心彼の心づかいを喜んだ。すず子は急性盲腸炎になり入院した。三吉は新聞社に職をみつけた。たか子は入院費と引きかえにその仕事を良に譲る様に頼んだが、三吉が金をこしらえると云うのですず子は断った。退院して家へ帰ると、ミシンを残して家具は皆売払ってあり、その上三吉は良に職を譲って了っていた。森下は志野と別れて田舎へ帰ると云うので、三吉夫婦は家財を売った金で餞別を贈った。しかし二人はほがらかに良にもらった切符で音楽会に行った。その留守宅には旧師向坂先生の処に就職口があるとの報せが待っていた。