伊勢海にある歌島は人口千四百、周囲一里に充たない小島である。久保新治は、船に乗って働き、母と弟と三人暮しの家計を助けていた。ある日夕暮の浜で、彼はふと見知らぬ少女を見かけたが、何故かその夜はいつになく寝つきが悪かった。翌日彼が船できいたところによると、この少女初江は頑固で金持の宮田照吉の末娘で、他所にやられていたのが、婿取りをするために呼び戻されたのだという。その後新治は山のなかで、道に迷った初江に再び出会った。それは秘かなそして楽しい出会いだった。だが暫くして、新治は島の名門の息子である川本安夫が初江の入婿になるという噂を耳にした。そして砂浜で初江に会った機会に、彼はこの真偽をたしかめたが、笑って否定する初江だった。新治は我知らずその唇に触れてしまった。斯うしてたまの逢びきをしている間、ある時、砂浜で裸になった二人はそのまま熱情的に抱き合うのであった。初江は新治の嫁になるのだと云い張ったが、それ迄はと最後の一線だけは守っていた。一方、東京の大学に行っている燈台長の娘千代子は、休みで帰省していたが、心を寄せていた新治が初江と一緒にいるところを目撃し、それを安夫に告げてしまった。嫉妬にかられた安夫は、ある夜、初江を襲ったが、偶然とんできた蜂に妨げられて果さなかった。だが照吉は二人の結婚には固く反対していた。やがて新吉と安夫は島の青年達の憧れの的である歌島丸に乗りこみ、訓練を受けることになった。ズボラな安夫に対し、誠実な新治は、暴風雨のために切れたワイヤーを直すために命を賭して怒涛の中に飛びこんだ。船が帰ってきたとき、この働きぶりは照吉にも知れ、二人は遂に晴れて結ばれることになったのである。