甲州猿屋の勘助を叩き斬って兇状旅に出た次郎長一家も、次郎長女房お蝶が病気となり、野分吹きすさぶ他国の空に難渋をきわめる。世間の眼もつめたかった。先年次郎長がその零落を見かねて一興行立て、急場をすくってやった力士八尾ケ嶽久六が、今は尾張で名も保下田の久六と改めた売り出し中のいい親分ときいて三五郎、石松はそこに一時身を寄せようと提案した。一家はこころよく迎えられた。久六、じつは代官に通じて、次郎長捕縛のひと手柄をたてようともくろんでいるのだが、表面は巧みにとりつくろってボロを出さぬ。が、石松の幼馴染み小松村の七五郎の忠告によってそれと察した一家は、捕り方を先導してくる久六の裏を掻き、七五郎の家までのがれて、一応そこに落着く。七五郎の女房お園は、酒ものめば槍もつかう女傑、貧乏世帯をやりくりしてなにかと一家の面倒をみる。が、日日さし迫る窮状に病勢悪化したお蝶は、やがてみんなに見守られて死んだ。その野辺の送りもすんだかすまないかに、またも久六一家が襲来する。「お蝶、清水に帰ろうぜ」と遺骨を胸に立ちあがる次郎長につづいて、一家の者、ここを引払うつもりの七五郎夫婦が一団となって囲みをおしやぶる。追いかかる者を斬りはらい斬りはらい、足をはやめて一家は清水をめざした。