一九四五年七月の上海のことであった。太平洋戦争も終末に近く、にわかに活発になった重慶側の特務工作に対抗すべく、日本軍側も南京政府側も必死であった。柏機関の真鍋中尉は、南京政府側の丁士邨たちと共力、その任に当っていたが、ある夜ナイトクラブの百楽門で歌う美しい歌姫李莉莉の姿を見た。莉莉は長崎生まれの日本娘であったが、幼くして両親を失い、李克明の養女となって北京で育った女性だった。李克明は王兆銘の親友で南京政府の重要な地置にあったが、重慶との和平工作に活躍していた。その夜百楽門に重慶の特務工作の呉宗文、周永洋、周の妻王秀蘭などが秘密連絡のために集まっていたが王秀蘭と李莉莉とは女学校時代の親友で、このとき久しぶりに会って懐しい想い出話にふけっていた。しかし、秘密会合に気づいた丁たちの襲撃に遭って王秀蘭は脱出したが、周は真鍋の銃に倒れ、李莉莉も傷ついた。翌日、莉莉を見舞った真鍋は、彼女が日本と同じように中国を愛する真情をきいて彼女に心をひかれたが、丁たちは、彼女が王秀蘭の親友であることを利用するため、彼女に近づくことを真鍋に強いるのだった。李に対する愛情が深まるに従って、真鍋は彼女を工作に利用するのが心苦しくなって行った。李克明は和平のため重慶行を決行しようとするが、日本側から時期すでに遅しと拒否されると、ひそかに重慶側と連絡、脱出を決行しようとした。莉莉は父に同行を願ったがしりぞけられ、そのまま行方がわからなくなった。日夜心痛する莉莉に真鍋がひそかに父の居所を知らせてくれた。その夜は克明が上海脱出の日だった。しかし、出発直前に丁たちの襲撃を受け、克明の自動車はそのまま脱出に成功したが、王秀蘭は撃たれて死に、莉莉は捕えられ死刑の宣告を受けた。莉莉が刑場にひかれ、正に射たれようとする時、真鍋は思わず彼女の傍へかけ寄って、共に射たれて果てたのだった。