ものものしい選挙戦の中で、現役の町長与三郎は妻の玉枝に内証で妾トミ子を囲っていた。トミ子は色っぽい、ホルモン焼き屋の女将で、身重の体でありながら、客の応特に忙しい。与三郎はそんなある日、伯父の石丸代議士から選挙戦で弱味になるに違いない妾と手を切れと言われ、自分の経営する店の店員松夫をトミ子の所に行かせた。気の弱い与三郎に出来る仕事ではなかったのだ。与三郎の娘明子と結婚したい松夫は仕方なくトミ子と交渉するが、選挙の間だけの絶縁契約書にハンをとるまでさんざん毒舌を浴びせられた。それから数日後、与三郎の選挙事務所に菰かぶりが届けられた。開けてみると、中身はなんとトミ子の生んだ与三郎の子供だった。驚いた与三郎は玉枝の手前、その子供を松夫の子だと押しつけてしまった。そしてしきりに玉枝に言いわけする与三郎の言葉を、たまたまいあわせた新聞記者の上田が勘違いし、町長が不幸な星の下に生れた赤ん坊を養子にするという美談を花々しくトップ記事にしてしまった。おかげで与三郎はその美談通りに子供を引取ることになり、人情町長として圧倒的に町民の支持を受けた。対立候補の黒川が真相を叫んでも誰も耳を貸さず、与三郎は見事に勝利を収めた。しかし、トミ子は最初の約束と違って絶縁されたままなのに腹を立て、与三郎に暴行をはたらいた。そのため彼女は玉枝に訴えられて逮捕される破目にまでなった。一方、そんなトミ子に同情した松夫も、上田と親しくなった明子にふられ、ますますトミ子に好意を感じていた。やがて警察を脱走したトミ子は与三郎から子供を奪い返したが、それから間もなくのこと、春の海辺に立つトミ子母子と、松夫の姿が見られた。