貞二と洋子が知り会ったのは、洋子がモトクロスの練習に行く途中の貞二に「そのバイクに乗せて」と話しかけたときだった。以来、洋子は貞二の綾習についてくるようになり、仲間のマスコット・ガールになった。貞二は倉庫会社に勤めるかたわら、モトクロスチーム「埼玉ラングラーズ」のホープとしてノービスから一ランク上のジュニアに昇格して毎日練習にあけくれていた。次の予戦のとき、貞二はノービスクラスで自分より四歳も若い根本の華々しいデビューを目撃した。華麗なテクニックと他車をブッチギリの走りっぷりで魅了した。貞二は根本への嫉妬と闘争心で、決勝に挑んだ。貞二はあせりから不得手なコーナーを強引に突っ込みマシンもろともコース外へフッ飛ばされた。貞二は重傷を負い、病院にかつぎこまれた。そして、退院した彼を待っていたものは将来に見切りをつけてホンダが契約を打ち切ったとの報告だった。失意の底で、貞二はモーテルへ誘う洋子もわずらわしかった。そして、何週間か後、貞二は再びバイクに乗る決意をする。ジュニアに昇格した根元との決戦の日が来た。激励する誰もが貞二の敗けは疑わず、彼の再起を喜ぶ洋子も不安でならなかった。根本はピカピカのワークスマシン、貞二は市販のオンボロマシン。スタート。貞二はいつにない闘志で根本にピッタリとついていく。根本は貞二の思いがけない勢いにあせりの表情を浮かべる。見物席も貞二の予想外の健闘に息をのむ。二台はピッタリ並んで最終のコーナーに突入。「勝ちたい……」貞二の心は叫び続ける。最後のジャンピングスポット、二台は同時に跳んだ。精根つき果てて二人はマシンを降りた。貞二はわずかの差で二位だった。会場の小道をマシンでひきあげると、洋子が無言で立っていた。貞二も無言で、洋子を後に乗せると、レース場から去っていく……。