職業柄ファッション雑誌にはよく眼を通すのだが、「アドバンスト」とはいい企画だ。先日、五木寛之と90歳まで仕事を続けるという黒柳徹子のテレビ対談を見て、日本のシニアのお洒落もなかなかのものだと感心した。ニューヨークでの老人ファッションでも、人気女性誌に勤めていたというジョイス・カルパティ80歳のシックさがわたしの好みだけれど、けばけばしく色彩ゆたかに装う他の老女たちのお洒落に圧倒されて、グロテスクさこそ、究極の美かもしれないと思うにいたる。

高校の後輩にゴスペラーズの酒井雄二がいたので、アカぺラの楽しさとともに上品な連中だと思っていた。しかし、この映画でアメリカの頂点をめざすアカペラの歌い手たちは、人種も体型も多彩で、下品なギャグを平気で口にする。男女ともにアクションも派手で、これまでのイメージが吹っ飛んだ。プロデューサーとアカペラ選手権の解説者役を兼ねるエリザベス・バンクスとＪ・Ｍ・ヒギンスのコンビも秀逸。薄っぺらな感じがするのは、大学生のくせに勉強する場面が皆無なことである。

アルジェリア戦争に不条理にも巻き込まれた教師の物語。ヴィゴ・モーテンセンが得意の語学力を活かし、カミュ原作にある正義への「好み」をもった男をみごとに体現していた。主人公とレダ・カテブの演じるアラブ人は緑のない、岩肌と砂漠の殺伐とした土地を終始さまようのだが、日が暮れ、月が上がるのを見ているうちに監督がここを舞台としたのはたんなる西部劇趣味ではないと分かる。カミュも砂漠について「空虚、倦怠、無関心な空」、この場所の誘惑とは「孤独」であると語っていた。

アメリカン・ドリームの地だった工業都市デトロイトが廃墟と化していく有様を舞台にしたという最初のパートは映像も編集も鋭角的で怖い。いまも栄えているとはいえ、わたしも自動車産業の街と隣り合わせて育ったので、他人事とは思えないリアリティを感じた。しかし、この街が衰退した原因は、貯水池を造るために街の一部を水の中に沈めたことに由来するという呪い話あたりから、ムード映画になって、すぐれた演出技術が空回り。近頃多い脚本監督をひとりでやる映画のわるい例だ。