鑑賞録

鑑賞日 2012/12/10
登録日 2023/02/28
鑑賞方法 選択しない 
鑑賞費用 0円
誰と観た 選択しない
3D/字幕 -/-
メモ

堀川弘通×橋本忍の本格サスペンス

1963年の堀川弘通監督「白と黒」であります。製作は東宝傍系の東京映画。タイトルが「白と黒」だけに白黒映画です。脚本は橋本忍、音楽は武満徹。骨太のサスペンス映画。  冒頭で、弁護士・浜野(仲代達矢)が不倫関係にある靖江(淡島千景)と口論の末、絞殺してしまひます。アッ何と云ふ事でせうか。靖江も浜野の事を「男めかけ」などと罵倒するから不可ません。青島幸男ぢやないんだから。実はこの靖江、浜野の恩師でもある宗方弁護士(千田是也)の妻でした。  浜野が現場逃走後、前科四犯男の脇田(井川比佐志)が偶々宗方家に侵入、宝石類を盗んだ廉により逮捕されます。捜査一課の敏腕刑事・平尾(西村晃)は強硬です。夫人殺害の罪も着せられ、落合検事(小林桂樹)の執拗な追及に殺害を認めてしまひ、一旦それで事件は解決したかに見えました。  脇田の弁護を担当するのが、何と宗方と浜野のコムビ。浜野は良心の呵責もあり脇田を庇ふ言動が目立ち、その態度を不審に思つた落合は補充捜査を提案、開始します。脇田の死刑は決定的と思はれてゐましたが、落合の調査は浜野の不利を証明するばかり。遂に落合は浜野と対峙し、浜野は犯行を自供しました。本来なら検察側の黒星となるところですが、面子に拘らない再調査に世間は喝采を送り、落合は時の人となるのでした。  ところが、事件はこれで終らず、二転三転する事に......  堀川弘通×橋本忍×小林桂樹と云へば、傑作「黒い画集 あるサラリーマンの証言」がありますが、此方も中中の力作です。ただしこちらは松本清張原作ではなく、橋本忍のオリジナル脚本。松本清張と大宅壮一が本人役で出るので、つひ勘違ひしさうですが。  主演の小林桂樹が検事役。基本的に真面目な人格として描かれてゐます。しかし女房の乙羽信子には感情を露にしたり、事務所で働く小林哲子(「海底軍艦」のムウ皇帝)に軽口を叩いたり、聖人でもなく、人間臭いところもあります。仲代と一対一で安宿で対決するシーンは、本作の白眉と申せまう。  その仲代達矢は弁護士で劇中では只管追ひ詰められる立場。一貫して暗い表情をしてゐます。三島雅夫の娘・大空真弓と交際してゐますが、その前には岩崎加根子と付き合つてをり、匿名で仲代を中傷する手紙を受取り破談となりました。同じく大空真弓にも送られてゐる筈ですが、何故か彼女は否定します。  その手紙を送つたのが、想像通り淡島千景。殺されるだけの出演だし、嫉妬に狂ふ中年女の役で、よく引き受けたなと思ひます。勿体ない起用法ですが、流石の存在感です。儲け役は井川比佐志さんですな。窃盗はしたが殺人は冤罪であると思はせ実は......! 検察庁を翻弄する名演技であります。  一方で物足りぬのは、妻を殺された(しかも弟子と不倫してゐた)千田是也の葛藤と云ふものがあまり表現されてゐません。熱心な死刑廃止論者と云ふ設定も生かされませんでした。さういへば大空真弓の心の動きもいまいち分からない。これらをも少し深堀して、小林桂樹は狂言回し的な存在に徹した方が良かつたのでは。ま、素人の戯言ですがね。