松山ケンイチが一人二役で古田オリジナルに果敢に挑戦した
今年3月に東京豊洲にオープンした客席が360度回転するIHI劇場。
こけら落し公演として1年3か月に渡ってロングラン公演中なのが“劇団☆新感線”の「髑髏城の七人」だ。1990年の初演以来ほぼ7年ごとに演出を変えて再演してきたが、今回は花・鳥・風・月をテーマに4つのバージョンとつい最近ニュースリリースされた「極」の究極バージョンで幕を閉めるという演劇界注目の大プロジェクトだ。
「花」、「鳥」バージョンは全国ライブビューイングで観劇したが、11月3日「風」の千秋楽昼公演を観劇した。
物語は、本能寺の変で織田信長が明智光秀に討ち取られて八年後の戦国時代。
天下統一目前の豊臣秀吉の支配がまだ及んでいない関東を、天魔王と呼ばれる仮面の男が率いる「関東髑髏党」が支配しようとしていた。
風来坊風の捨之介は、なりゆき上、関東髑髏党に追われていた少女沙霧を助け、偶然知り合った狸穴二郎衛門とともに、無界屋蘭兵衛と極楽太夫が作った色街「無界の里」へと向かう。実は捨之介、蘭兵衛、天魔王の三人は共に信長に仕えていた過去があり、運命の糸は三人を中心に大きく動いていく…。
まず、劇場の感想だが、仮設だからロビーの狭さは致し方がなく、なんとなく赤坂ACTシアターに似た感じだ。
グルリと囲んだ360°の壁の中に段々になった1300席の客席がある。この壁がスクリーンとなり舞台を補完する様々な映像を映し出し、この周りを1300人の観客を乗せた客席が回転する。ちょうどディズニ-ランドのライドもののテーマアトラクションを体験しているときの感覚に近い。舞台転換の必要がない360度舞台だから、今までより劇の展開がスピーディで緊張感が全く途切れない、また前の映像に集中しているせいか思ったより動いている感触は少なかった。
そして、もうひとつ本プロジェクト最大の試みは、主要7人の配役によって脚本と演出を変え4つのドクロを観客に提示するというものだ。
「花」と「鳥」を観て、同じ物語の舞台なのに、ここまで劇の印象が変わるかと実感したが、「風」は捨之助と天魔王が同じ顔を持つという一人二役で演じる初期オリジナルバージョンに戻したことが大きな特徴。
この一人二役を松山ケンイチが演じている。捨之介と天魔王は信長の影武者で同じ顔を持つという設定で、この入れ替わりによる混同が物語のカギになるが、今回の演出では天魔王は今まで伝えられている信長のイメージに似せた衣装やメイクになっている。新感線の舞台二度目の松山は発声や身のこなしで両者の違いをうまく表していている。彼の明るい捨之介の演技により、やや暗かったオリジナルバージョンが青春ドラマっぽいワカドクロのような舞台に変貌したようだ。
一方、蘭兵衛を演じた向井理は少し期待外れだった。長身、小顔で、予想通り立ち姿はとても凛々しく、白菊の中に白装束で佇むシーンでは過去の蘭兵衛の中でもピカイチの美しさだった。しかし、台詞回しが一本調子で弱く、こと新感線の時代劇の舞台には不向きだ。そして殺陣が下手なのが致命的、ゆえに前回蘭兵衛を演じた早乙女太一の流れるような美しく早い立ち回りを再認識させられる結果となった。
田中麗奈も歴代の極楽太夫に比べると、小粒でやや存在感が弱かった。
そんな中で、本舞台をひきしめたのは兵庫を演じた山内圭哉だ。兵庫に共通のおチャラけた部分はあるものの一本筋の通った関東武者を演じて舞台役者としてベテランの上手さを感じさせてくれた。
どのシリーズでも芸達者に演じさせてきた一番のキャラクター刀匠贋鉄斎は今回橋本じゅんだった。もうこのキャラクターはドMにしろ、ドSにしろ、行き着くところまで行ってしまった感があるので、見どころは、役者がどう自分の色に染めてしまうかという点だ。千秋楽の橋本じゅんは疲れ気味なのか、いつもよりおふざけ度のボルテージが低かった感じがしたが、山内と橋本、生瀬などやはりベテラン陣が出て来ると、舞台がぐっと引き締まる。
11月23日から始まる第四弾「月」バージョンでは、過去最大の若返りを図り、ほぼ若手俳優だけのWキャストの公演となる。新感線のベテラン陣もあまり出ず、一見キャストの弱さを感じるが、今までの3バージョンを観ると、いのうえの演出、中島の脚本にかかって、どう生まれ変わるのか?この若手中心が意外に大化けするかもしれないと思わせるから新感線の舞台は止められない。
自分としては、最後の「極」には、古田新太、市川染五郎、堤真一、天海祐希の最強布陣で臨んでもらいたいと願ってやまないが。