本作は、神戸連続児童殺傷事件の当時14歳の犯人少年Aと想定される青年と記者に挫折した主人公の出会いと別れがメインに描かれている。
2人は同時期に部品工場の工員として試用される設定だが、主人公のような経歴から本作で描かれるような工員として働く設定には違和感がある。また演じる生田斗真にもその経歴の面影を感じることができないのは残念なところだ。
瑛太演じる元少年Aのコミュニケ能力に乏しく、感情を押し殺したキャラははまっている。
ただ元少年Aはもっと複雑又は偏ったなキャラではないかと考えると、そもそも本作でのAの捉え方が中途半端ではないかとも思った。
それでも元少年Aが少年院で溶接工の資格を取得していたり、少年院で特に慕っていた女性刑務官との関係を描いていて、事件後の生活の一端は細かいデイテールも描いている。
女性刑務官の富田靖子は好演。ただ彼女が業務に熱心のあまり自分の娘との関係がなおざりで大きな溝ができているといった描写は必要だろうか?
彼女が殺人の本質である存在を無くすということの重要な意味インパクトを喧嘩する少年院の受刑者に諭すシーンが、彼女の娘の堕胎の相談に対する反応にも表れているのだろうかとも思ったが。
彼女が少年Aは更生していると信じる態度は彼女の職務の誠実さを表しているとも思ったが、娘には理解されていないのだなとも思った。
本作では主人公と元少年A以外にも多くの過去にトラウマや傷を負った人々が登場する。
元少年Aと親しくなる少女は、過去に付き合った男から乱暴され、挙句にAVに強制出演させられ、そのDVDを彼女が逃れようとすると脅しのために彼女の親族や知人にばらまくといった悪質な男に付きまとわれている。
また息子が無免許で自動車事故を起こし3人の子供の命を奪ったため2つの家族に謝罪し賠償する父親は、非難を避けるために10年前に一家離散している。ゆえに他人の家庭を壊しておいて自ら家庭を作る息子を許せない。
この父親の余りにも生真面目な一徹さが更なる不幸を招来していることの哀れさを感じた。佐藤浩市が白髪の父親役を熱演している。
これらの登場人物に比べると主人公の傷はインパクトが弱い印象だ。
結局本作は元少年Aも含めて過去に傷を負った者たちをそのままに提示して見る者に考えさせる姿勢で、何ら答えは提示しない。
特にマスコミでも大きく取り上げられた元少年Aの事件はマーケティング的に利用したに過ぎない印象だった。
様々な過去の群像劇としは個々があまりにも重すぎる反面、掘り下げ方が浅い気がした。