妹尾河童の少年時代を基に描いた同名の自伝的小説が原作。
本名・肇のイニシャルHを編み込んだセーターを着ていたことから、友達にHと呼ばれていたことがタイトルの由来。
物語は昭和初期の神戸から始まり、敬虔なクリスチャンの両親(水谷豊、伊藤蘭)と妹(花田優里音)と暮らす肇(吉岡竜輝)の一家が、戦争によって翻弄される姿を描く。
アカのうどん屋のお兄ちゃん(小栗旬)の逮捕、女形の男姉ちゃん(早乙女太一)の招集と自殺、日米開戦後はクリスチャンである故の弾圧、軍事教練のエピソードと神戸空襲を経て敗戦、窮乏生活、家業の復活、少年の旅立ちまでが描かれる。
父は洋服の仕立て屋で神戸の在留西洋人とも親しく、クリスチャンであるがゆえに戦時下においても良識派で世界情勢をわきまえた一家というように描かれるが、帰国した米婦人から送られてきたエンパイヤステートビルの絵葉書1枚から、少年が日米の国力の差を認識し、日本の敗戦を見通すという冷静な分析をするなど、いささか胡散臭い一家で、戦時下における反戦一家を純粋化し美化しているのが鼻につく。
軍国主義に染まる愚かなおっちゃんや教官、同級生。彼らが敗戦とともに掌を返したように米兵や民主主義に迎合する姿を批判するが、一貫しているのは大衆を愚かだと断じる賢い少年の上から目線で、自分とその家族だけが一億総懺悔の責から免れるという、まるでユダの言い訳のように語られる。
愛と罪について語る母、現実を受け入れる人格者の父、自己の正当性を貫く主人公と、見ようによっては正義感溢れるヒューマンドラマだが、見ようによっては軍部と同じくらいに窮屈な一家となっている。