脳の病気で介護が必要となる妻を、エマニュエル・リバァが演じています。「二十四時間の情事」でパリから広島へやってきた女優の役をやった人です。入院を拒否され、在宅で世話をする夫をジャン・ルイ・トランティニャンが演じました。シャバダバダシャバダバダの音楽で有名な「男と女」の男優さんです。両者に馴染みがあったのは、良かったです。それぞれ年を取り、現在地として、ミヒャエル・ハネケの冷徹なカメラの前に立っていました。エマニュエル・リバァの場合、入浴を助けてもらうシーンでは、乳房まで見せています。
私の場合、父を半年、母を三か月、義理の父を二週間と、世話をし、それぞれの最期を看取りました。現在は、義理の母、94才を介護中です。実の子供である妻が在宅ケアで悲鳴を上げ、施設と家で面倒をみています。介護は余程のケースでない限り、施設を介した方がよい、と思っています。夫婦の場合も、そうです。ただ現実がそこまでいっていないので、そうなった時に踏み切れるかどうかはわかりませんが、お互いのため、ある一定の距離は必要かと感じる訳です。
映画では、娘が出てきますが、最後まで部外者でした。役立たないこの存在にリアリティーがありました。介護では、血縁ではなく、実際に身近にいる人しか当てにはできないのです。
病気になった以上、いつもと違う日常が待っていることを覚悟する必要があるのですが、現実的には想定外の忍耐は、やはり持てません。ジャン・ルイ・トランティニャンの行動に私は納得せざるを得ませんでした。
人類がこれから先、いろんな介護を経験して、悲劇的結末を回避するような知恵や工夫を編み出してもらいたい、と思いました。