ユーロスペースのレイトショーでは、なぜか大森一樹のミニ特集が組まれており、この監督とは昨年秋の田辺弁慶映画祭で審査員として酒席などに同席したこともあって、観たことのない映画には食指が動いた次第。
この映画は日本テレビ水曜ロードショーの枠で放送された作品で、実際に医師免許も持っている大森にとって馴染の深い医学部内の題材を扱っているだけに、代表作のひとつに挙げられることもある作品です。
大森の医学部ものといえば「ヒポクラテスたち」がすぐに思い出されるわけですが、この映画のことは全く忘れてしまっているものの、昔で言う“インターン”の医師たちを題材に、面白可笑しいエピソードを連ねながらも、辛口でほろ苦い、端正な作りの青春映画というイメージが残っています。実際は違うかも知れませんが…。
この「法医学教室の午後」についても、何やら整然としたタイトルのイメージもあって、同様に端正な映画を想像していたのですが、冒頭から、若い秘書宅で腹上死した会社社長の死亡現場に駆け付けて死体検分をしている菅原文太が、どう見ても刑事にしか思えなかったのに、実際は大学医学部の法医学教室を受け持つ教授という役柄であり、違和感が付き纏います。腹上死という社長の死因を家族には秘密にするよう会社側から要請された文太教授は、社長の娘・紺野美沙子から本当の死因をしつこく尋ねられますが、嘘をつき通します。
その紺野が数年後、医学部を出て文太の法医学教室の新人として入ってきます。人数が少ないから教授になれるチャンスが多いという理由で教室入りしてくる大江千里とともに、新人の紺野が、教授の文太を始め、助教授の佐藤オリエ、腕のいい外科医の道を捨てて監察医の仕事を選んだという講師の寺尾聰、個人病院の娘・室井滋を妻にしたおかげで尻に敷かれ、妻に振り回される助手・小倉一郎らに見守られながら、監察医として成長する物語が映画の縦軸となり、春~夏~秋~冬~そしてまた春という1年余りの間、この教室が扱う死体に伴う、残された家族たちのドラマがオムニバス風に展開してゆく映画です。
個々のエピソードが故意にドタバタ調に演出されていることには違和感があり、本来TVドラマとして製作されただけに、視聴率狙いの作りがあざとく感じられることも否定できませんが、医師としての矜持に貫かれた彼らの誇り高さは、監督・大森の基本姿勢が反映していると思われ、説得されることも事実です。決して面白い映画ではありませんが、悪い映画でもありません。