感情がお腹の中から染み拡がってくる名作、ガンマンがここまで大人になった
朝鮮戦争での自分の行為に苛まれ続け、子供達と上手くいかない主人公が、ふとした切っ掛けで隣のアジア人家族と触れ合い、そして最後。。。
設定は、円熟期のイーストウッド監督・主演物では定番の感がありますが、当作では他人の子供のバディ役というのが主軸になります。
物語は妻の葬式で始まります。苦虫潰した顔のイーストウッドが立っており、孫達のふざけぶりを苦々しく睨んでいるシーンが、家族とのすれ違いを感じさせますね。加えて、神父が若造で、お決まりの説教を学校で学んだ通りに話す感じが、これまたイーストウッドの心象を害するという冒頭で始まります。これに象徴される通り、この映画では色々な対比が表現されているな、と感じました。戦争経験世代とその後の世代、白人対有色人、学校出たばりで死を語る若造神父と戦争で死を直面した主人公等々です。
最初は単なる頑固ジジイに見えた主人公が、徐々に隣のモン族と関わる様になり交流を深めていく姿がとても心地良く観れました。彼の心や態度が徐々に和らいでいく様子を、とても自然に描いています。この雰囲気に包まれるのも良いなぁと思いながら観ていくと、事件が起きます。起きるというより、彼のトラウマが起こしてしまった、と言っても良いでしょう。それが招いた結果に彼は後悔し、だけど、激情に走らず、全てを考慮して最善の結果を残すのは何かを考え、実践するのが後半になります。彼と周囲との言葉遣い、視線、ちょっとした躊躇い、ユーモア等を上手く織り込みながら、ラストへ向かう主人公と周囲の人達の心の揺れと行動を、深く、しかも、分かり易く描かれていたと思います。繰り返しになりますが、これだけ深く、しかも分かり易い映画はそうそう出会えないと思いました。
イーストウッドは、銃を何度か振りかざし、拳闘シーンもありますが、さすがに年齢相応で迫力は鈍っていました。ですが、それは本人も考慮済だったのですな、だからこそ、ラストが活きてきます。観ている最中は、まさか、これまでの彼の西部劇を踏襲したラストになるのかぁ、それって大丈夫かぁという感じでハラハラ観ましたが、あの決定的な瞬間は、さすが西部劇の決闘シーンで演じてきた心理戦を見事演じ切った感がありました。脱帽です。
モン族の姉弟役の二人が、とても良い演者でした。
エンドロールで、グラントリノの曲が流れてきますが、最初の方のボーカルはクリント・イーストウッドでしょうか?