グラントリノとは主人公が自動車工として働いてきたフォードの車種で本作では1972年製で手入れがよくしてあり、ビンテージカーのようだ。
舞台は現代のデトロイトでかつての自動車産業の面影はなく、荒廃した街に移民とギャングがはびこる。
冒頭主人公の妻の葬儀のシーンから始まる。
彼はよき時代のアメリカと朝鮮戦争を生き抜いた厳格な父であり、息子や孫たちは彼を煙たがっている。
彼も葬式にへそを出した服で出席するような孫娘や日本車の営業をしている息子を内心苦々しく思っている。
葬儀が終わるとさっさと帰る子供たち一家と見送る主人公。
互いに大きな溝ができてしまっているようだ。
主人公は妻との死別で益々孤独に閉じこもり、偏屈になっていく。
隣にこしてきたフン族というアジア系の一家に対しても、庭の芝生をきちんと刈らないような様に不満を持っていた。
隣家の少年タオはアメリカに移ってきて引きこもりがちで、不良の従妹と仲間たちがギャングの仲間に入れようと彼に隣家の主人公のグラントリノを盗むよう唆す。
しかし彼は主人公の家の車庫に侵入したところで、主人公に見つかり逃げる。
タオの姉が黒人の不良にからまれているところを主人公に助けられる。
ここで姉と一緒にいたボーイフレンドをイーストウッドの息子スコットが演じている。
息子を罵るイーストウッドはどんな気持ちかな?
娘を助けてもらった一家は主人公に手厚くお礼をするが、言葉が通じない中で彼は困惑してしまう。
それでも優しく社交的な姉のおかげで、フン族のパーテイに招待されることで忘れていた家族の温かみを思い出していく。
この主人公の変化を巧みに描く脚本がいいい。
主人公は車を盗もうとしたことのお詫びとして仕事をするように母親から命じられたタオを当初は断るが、誠実に仕事をする彼を気に入る。
タオも当初は強面の主人公にとっつきにくさを感じていたが、性根の優しさを理解していく。
主人公はそんなタオを伝手で建築現場の仕事を紹介し、道具や必要道具をそろえてあげる。
引きこもりから順調に仕事に慣れて行ったタオをギャングたちが痛めつける。
それに激怒した主人公はギャングのボス格の男を暴力で脅す。
しかしこれがきっかけでギャングはより過激となり、タオの家に機関銃を撃ちこみ、姉を強姦する。
主人公はこの事件で自分の軽率な行為がよりひどい結果を生んでしまったことを深く悔いる。
そして最終的に紛争を解決するために、一緒に復讐したいというタオを残してギャングのアジトに向かう。
彼は実は丸腰でわざとギャングに撃たれること見越して、ギャングを一斉逮捕させ最終解決を狙ったのだった。
狙いは当たり、ギャングは逮捕されたが主人公はハチの巣のように撃たれ絶命する。
しかし未来のある真面目なタオを見込んでグラントリノを彼に遺贈するのだった。
肺がんで余命いくばくもない主人公が、本当の家族(血族)ではなく、失われた良き時代の家族観やモラルを感じさせてくれたタオたちにシンパシーを感じ命を賭けて守ったエンディングは主人公の深い孤独を感じるとともに神の救済を求めるメンタルを感じた。
その後当初の主人公のようなブルーワーカーで古き良きアメリカを信奉している白人がトランプのような詐欺師に騙されてしまうのかなとも思った。
出来れば主人公のように偏見をなくし覚醒してくれればよいなと思ったのは余計なお世話かな?