冒頭、スタッフのクレジットが何故か重複している。原版に起因するもののようだ。こういうこともあるのかぁ。キャストは最後にクレジット。
主人公の一家の貧乏臭さが半端ない。まるで豚小屋のような家に住んでいて、父親は真面目に働かず、飯もろくに喰えない。風呂は月1回程度という極貧家族。まるで成瀬巳喜男監督作品によく出て来そうな家だ。
その中でも長男・次男・長女は元気いっぱい、作文を書くことが大好きで、何よりの楽しみとしている。何かを書くことが好きだという気持ち、俺にもわかるような気がする。俺もガキの頃は日記を書いたり、手紙を書いたりするのが好きだった。手紙は今でも書いている。自分の思ったこと、感じたことを書くことで伝えたい―そんな気持ちに共感出来る。
ただ、どうしてもこの家族(父親は別)につきまとう清貧的な雰囲気がどうも鼻につく。ストーリーも初めは退屈に感じた。「雑居家族」(1956年)とかにも観られるような、いくつものエピソードが淡々と、一本調子な感じで進んで行くように思えた―しかし、後半から急にそれが変わる。次男が拾って来た子犬、彼が皮肉なことに悲劇の種になるとは…。この展開が自分としては意外だった。
次男の作文はコンクールで第1位に。しかし長男は嬉しくない。感想を聞く新聞記者に彼が言った―作文が入選しただけでワイワイ騒がれるのは嫌なんだ。どうせ皆そのうち自分たちのことは忘れてしまうんだ―そんな言葉が切ない。彼等兄妹はただ純粋に好きだったから作文を書いていた。しかしこの次男の功績が結果として、皮肉にも兄妹、特に長男から作文を書くことの喜びを喪失させることにつながってしまったのではないか。少年の、世間に対する怒りを込めたまなざしも印象に残る。本当に切ないラストだ。そこが従来の久松監督のホームドラマとは違うところだと感じた。