小賢しいテーマは悠久のガンジスに流されてしまった感
遠藤周作の同名小説が原作。
訳あってインドの聖地ベナレスへの旅行ツアーに参加した3人の男女の物語で、タイトルの深き川はガンジス川のこと。
僧となった学生時代の男友達に会いに来た美津子(秋吉久美子)の物語を軸に、癌で亡くなった妻の転生という少女を探しに来た磯部(井川比佐志)、インパール作戦で戦死した戦友を弔いに来た木口(沼田曜一)のエピソードが絡むが、過去話が終わり現在形になると物語が若干弛む。
美津子は敬虔なクリスチャンの男友達・大津(奥田瑛二)とからかい半分にセックスし捨てたことがきっかけで、大津はリヨンの修道院からイスラエルのガラリヤを経て、インドでヒンドゥー僧のように暮らしている。
一方の美津子は浮ついた生き方を見つめ直すために大津に会いに来る。大津は貧乏僧となって貧者の救済に尽くすが、美津子との再会後に事故死してしまう。
大津の汎神論とイエスの受難、人々の苦悩を受容するガンジスに流れなどが語られるが、要は不器用な大津の生き方に俗物の美津子が感化されてしまうというもので、大津の思想の勝利で終わる。
もっとも熊井はそれを描き得たかというと疑問で、インドの大地と人々の姿に圧倒されて、それを収めるためにカメラを回すのが精一杯。美津子同様に小賢しいテーマなど、悠久なガンジスの流れに押し流されてしまった感がある。
「すみません」を連発する奥田の演技が光るが、秋吉の突っ張った演技もオバサンとなっては無理がある。井川と亡妻を演じる香川美子、沼田の演技も渋くて泣かせる。(キネ旬7位)