原節子が不倫妻を演じる戦争の終わらない男と女の物語
今日出海の小説『この十年』が原作。
フィリピンで終戦を迎えた男と戦友の未亡人の戦後10年、戦争の終わらない物語。
年長の楢崎(佐分利信)は6歳の子供のいる戦病死した田口(内田良平)の未亡人・勝子(原節子)に同情して結婚する。ところが上京した戦友の一家を同居させたり、怪我をして失業した楢崎が再就職できず、生活費を得るために勝子が丸の内のショップに働きに出たのを機に夫への不満を募らせ、戦友の一人・大平(三船敏郎)と不倫してしまう。
物語は終戦10年後から始まり、誕生日プレゼントのカメラを買うために息子と銀座に出た楢崎が勝子の不倫現場を目撃してしまい、終戦から10年間の回想となる。
その夜、離婚を決断した勝子は家を出て行くが、誕生日を忘れていた母に愛想を尽かした息子は楢崎を選ぶ。楢崎は家に供えていた田口の遺品を捨て、漸く戦争を終わらせることができる。
戦争の傷から癒えない男の悲劇で、同時に戦争未亡人・勝子が自らの意志に従い戦争を終わらせる物語でもある。
そのためクレジットでは原節子が主役となっているが、その影はやや薄く、佐分利信が主役の物語になっているのは演技力の差か。
原節子が不倫妻を演じるのがイメージにそぐわないが、そのためか夫からも息子からも見放されてしまう悪妻になりきれてなく、ミスキャストに感じる。
自分に正直に生きる女を演じ切れていれば、ただの不倫妻ではなく、楢崎同様に戦争に翻弄されたその悲劇性を際立たせることができた。
他に小林桂樹、藤間紫。八千草薫25歳の若き姿も見どころ。