井上靖の原作を、稲垣自身と黒澤明が共同で脚本を担当した一作。團伊玖磨が音楽を担当してゐます。時代は天正元年(1573年)、小谷城の戦ひで、浅井長政が織田信長に攻められ落城寸前といふところ。結果長政は自害し、家臣だつた疾風之介(三船敏郎)、十郎太(三國連太郎)、弥平次(市川段四郎)の三人のその後を描く作品であります。
疾風之助には将来を誓つた加乃(浅茅しのぶ)といふ女性がゐましたが、出陣に際して十郎太に託す。疾風之介は戦場で暴れまくりますが、何分多勢に無勢、大勢の決つた戦に勝ち目はなく、傷つき倒れるのでした。意識を失ふ時に、何やらキラキラする演出が印象的。
瀕死の状態の疾風之介を救つたのが、野武士・藤十(東野英治郎)の一味。殺してしまへとの意見もありましたが、藤十の娘・おりょう(山口淑子)が助け出します。次第に疾風之介に惹かれてゆくおりょうは、彼との逢瀬を重ねます。その現場を目撃した藤十は怒つて疾風之介に斬りかかりますが、弾みで自分を刺し絶命してしまつた。間抜けであります。そのまま姿を消す疾風之介。
サテ加乃を託された十郎太は研師の惣治(志村喬)の元に身を寄せてゐました。身を立てるには戦で功を挙げるしかないとして、嘗ての敵、信長軍に加はります。丹波八上城の戦で、再会する疾風之介、十郎太、そして弥平太に救はれた加乃。おりょうは疾風之介と加乃の関係を知り絶望して、ああ......!
戦国の世を借りた、落武者三人と若い女性二人の群像劇と申せませうか。戦闘場面も多くありますが、三船を巡る浅茅と山口との三角関係めいた物語の側面も強い。特に山口淑子の野性的な演技は特筆ものであります。何方かといふと、巻き込まれヒロインの印象がある彼女ですが、ここでは活き活きと能動的な女性を演じてゐます。対照的に浅茅の可憐さも中中です。正直、疾風之介は加乃と再会するまではおりょうに心が寄つてゐたのではないかと邪推致します。
それだけに悲恋に終つた山口の最期の呆気なさは残念。三船と浅茅も、この先必ず幸せになれる保証はありますまい。しかし稲垣浩監督はジメジメしません。からッとしてゐます。この空気感、現在の日本映画に乏しいと感ずるのはわたくしだけでせうか。ああ、わたくしだけですか、それならいいけど。