市村泰一監督のデビュー作は「黄色い手袋」である。観ないうちから、その垢抜けしない低俗感に苛まれて観る気を無くしていた。第一作だけで決めつけてはいけないと思ってきたが、でも、市村監督はその後もテレビの売れっ子や人気歌手で客を呼ぶプログラムピクチャーに専念しているかに見えた。なんだかなぁ...と思いつつ日を経てきた。そしてこの映画である。
田村正和の昔が見られるので、ちょっと覗いてみようと思った。クレジットを見ていて、スターの顔見せ映画にしては配役の層が意外に厚いことに気が付いた。志村喬、笠智衆のほかに、北村和夫、荒木道子、木村俊恵、菅井きん、園井啓介、南田洋子、倍賞千恵子らが顔を揃えている。熊井啓の「帝銀事件」で主人公を演じた信欣三も出ていたりする。
暫く観ていて、意外と丁寧な作りであることが分かってきて襟を正した。
内容は身体障害者(聾唖者)の冤罪事件を扱っていて真摯なドラマ作りだった。犯罪の謎解きは本格的で、殺意と善意が交錯して思いがけない事件に至る組み立てはさすが売れっ子作家西村京太郎である。
犯罪の実態が弁護士(北村和夫)によって解明される法廷シーンが意外な展開になっていて推理ドラマとして工夫されている。
そのため純愛物語と犯罪の解明と一粒で二度おいしいと言えるが、ドラマとしては山が二つになってしまった。もう少し脚本段階で工夫してほしかった。でも、監督市村泰一は良い仕事をしていた。チャンスを与えられれば力量を発揮する人でした。