沙羅の門

さらのもん|----|----

沙羅の門

レビューの数

6

平均評点

70.0(12人)

観たひと

23

観たいひと

5

基本情報▼ もっと見る▲ 閉じる

ジャンル 文芸
製作国 日本
製作年 1964
公開年月日 1964/10/14
上映時間 98分
製作会社 宝塚映画
配給 東宝
レイティング 一般映画
カラー モノクロ/シネスコ
アスペクト比 シネマ・スコープ(1:2.35)
上映フォーマット 35mm
メディアタイプ フィルム
音声 モノラル

スタッフ ▼ もっと見る▲ 閉じる

監督久松静児 
脚色新藤兼人 
原作水上勉 
製作寺本忠弘 
撮影梁井潤 
美術加藤雅俊 
音楽崎出伍一 
録音鴛海晄次 
照明下村一夫 
編集庵原周一 
助監督高野昭二 
スチル田中一清 

キャスト ▼ もっと見る▲ 閉じる

出演団令子 千賀子
草笛光子 八千代
森繁久彌 承海
加藤治子 さだ子
菅井きん お徳
木村功 剣山仙吉
船戸順 橋田
加藤春哉 憲泰
遠藤辰雄 圭念院
細谷清 恭順
ヤシロセブン 紋吉
山田佳子 八重
頭師孝雄 酒屋の小僧

解説 ▼ もっと見る▲ 閉じる

水上勉の同名小説を「卍(まんじ)(1964)」の新藤兼人が脚色「僕はボデイガード」の久松静児が監督した文芸もの。撮影もコンビの梁井潤。

あらすじ ▼ もっと見る▲ 閉じる

京都八坂神社の一寺に下宿して女子大に通う千賀子は、子供が出来たことを知ると、恋人橋田に話したが冷たく拒絶され、強いショックを受けた。だが姉のように慕う義母八千代の好意で、千賀子は無事中絶を終えた。八千代は戦争未亡人であったが、昌福寺の千賀子の父承海と再婚し、年令の開きも、禅宗のしきたりで正式に妻の座につけないことも苦にせず、承海につとめる善良な女であった。そして八千代は、この山門に沙羅の花が匂う、昌福寺で女盛りを迎えたのだった。沙羅の花の甘い匂いをかぐと、全身が欲情にうずくとは、八千代が千賀子によく語る言葉であった。そんな八千代を承海は心から愛していた。一方回復した千賀子は夏休みのアルバイトで、銀行員剣山仙吉と知り会い、深い交際に入っていった。妻子を捨てても、千賀子と生涯を共にしたいという仙吉の言葉に、千賀子の心は揺らいだ。承海は、そんな娘に気づかず、昌福寺に手伝いに来た野々宮恭順を養子にと考えていた。その頃千賀子は、甘い言葉の裏で、仙吉が求めたものが、中年男の欲望にすぎなかったことを知り、仙吉と別れる決意をしていた。アパートを訪れて、娘の悩みに気づいた承海は、千賀子に「自分を大切にするよう」訓した。それは、禅宗でありながら、千賀子の母さだ子と、八千代という二人の女を愛した自分へのざんげでもあった。だが千賀子の愛する父はそうした正直な人間としての承海であったのだ。その承海が事故で五十二歳の命を閉じた。千賀子と八千代を残して他界した承海は死後、女を寺に入れず、禅宗の戒律をまっとうした僧として、大和尚の院号が贈られると噂された。籍が入っていない千賀子と八千代は葬式に参列出来ないまま、承海の暖かい思い出を抱いて、沙羅の門をあとにした。新しい生活の出発が明日を待っているのだ。

キネマ旬報の記事 ▼ もっと見る▲ 閉じる

1964年11月下旬号

日本映画批評:沙羅の門

1964年10月下旬号

日本映画紹介:沙羅の門

原作寸描:水上勉の沙羅の門

2020/07/18

2023/12/04

75点

選択しない 


禅宗では妻帯を禁ず

ネタバレ

 1964年公開、久松静児監督の「沙羅の門」であります。原作は水上勉の同名小説。残念ながらコレは未読。新藤兼人が脚本化し、音楽は「たまゆら」の崎出伍一が担当。

 冒頭は、布団で眠つてゐた少女・千賀子(長谷部たみ子)が突然目を覚ますシーン。外へ飛び出し病院へ行くと、母さだ子(加藤治子)が死んだと、父で昌福寺の承海(森繁久彌)が告げます。続くシーンでは続いて今度は父の再婚相手・八千代(草笛光子)がやつて来るシーン。八千代は千賀子に、自分を姉と思つて、苛めないで欲しいと語る優しい女性です。山門の沙羅の花を自分に見立ててゐます。

 サテ女子大生に成長した千賀子(団令子)、恋人の橋田(船戸順)と学生結婚を望んでゐましたが、彼の子を妊娠したと告げると態度を豹変させたので別れます。八千代に打ち明け、堕胎費用5000円を都合して貰ふのでした。次いで今度は会社員で妻子持ちの剣山仙吉(木村功)からプロポーズされます。平気で妻子を棄てると言ふ千吉を信じられず、又も別れを宣言します。

 そんな奔放な千賀子に、承海は養子を取らせて寺を継がせたいが、千賀子は拒否します。その後この父娘は本音をぶつけ合ひ、蟠りは氷解するのでした。ところがその直後、バイクを運転中の承海がダンプに轢かれて急死すると云ふ事態に......

 団令子・草笛光子のダブル主演による女性映画でした。団令子さんはコケティッシュな魅力とかファニーフェイスとか、その方面で語られる事が多いけれど、しつかり演技派でもあります。巨匠監督たちが繰り返し起用する事もうなづけるのでした。中でも、京都の大文字焼が見られるアパート内での、木村功とのやり取りは必見であります。

 禅宗のシキタリでは妻帯が禁じられてゐるので、それを逆に利用した作劇が効いてゐます。だから草笛は籍を入れる事が出来ず、法的には他人のまま。そのせいか草笛は森繁を「おッさん」と呼んでゐます。本作のモリシゲはイメエヂ通りの酒好き女好きの生臭坊主を演じながらも、主演二女優を立て、脇へ回らうとの配慮が感じられました。

 あくまでも建前上は独身の森繁だから、死んだら草笛も団も寺から追ひ出されてしまふのでした。その辺の経緯は、遠藤辰雄や田武謙三が厭らしく嫌らしく説明してゐます。そんな二人に大僧正の宮口精二がこれまた嫌味たつぷりに皮肉るのが面白い。それでも所詮宮口もこの世界の人間、草笛と団を見かけ、意味深な会釈をするのが精一杯でした。

 ラストで、団が草笛に「実家へ帰らず、私と一緒に暮して」「これからはお母さんと呼ばせて」なんて言ふのが又泣かせます。そして二人を探す、昌福寺のお徳(菅井きん)の姿で幕を閉ぢるのでした。地味ですが、中中のドラマと申せませう。

 ところで、短期間ながら大津市(現在の比叡山坂本駅=当時は「叡山駅」の近く)に住んでゐた事のあるわたくしとしては、和邇とか雄琴とか堅田とかの地名が懐かしかつたです。因みに本作公開時はまだ国鉄湖西線は開通してゐなくて、その前身たる江若鉄道がまだ健在だつたのです。

2023/06/01

2023/06/01

-点

映画館/東京都/神保町シアター 

『沙羅の門』。かなり使用感のあるフィルム。ピントがずれることしばしば。禅宗のお寺の奥さんは内縁の妻っていうのはどうなの。京阪電車は土手上を走る。千賀子(団令子)が働くビアガーデンはレストラン菊水がすぐそこなので東華菜館の屋上のような気がする。承海(森繁久彌)の葬式、座棺。

2023/05/28

2023/05/28

75点

映画館/東京都/神保町シアター 


草笛光子と団令子の熱演による佳作

水上勉らしい禅寺を舞台とした原作は未読。の1本。森繁は、禅宗の寺・昌福寺を預かる僧の承海。禅宗には「僧は妻を持てない」というしきたりがあり、妻がいても入籍はできず、最初の妻加藤治子を亡くし、娘の千賀子(成人後が団令子)が14歳の時に後妻として草笛光子を迎える。草笛は、千賀子に「貴女のお姉さんになってあげる」と言い、成人になっては、何でも相談する仲の良い“母娘”になる。以降は、団令子の交際相手の話となり、それによって父と娘の関係が悪化する時期もあるが、母娘は良好な関係を続ける。ラストは、団の「私のお母さんになってね」のセリフも含めて、涙涙の素晴らしい結末だった(脚色は新藤兼人)。草笛光子は、森繁が後妻に迎えて以降ぞっこんになるのも納得の、美貌と色っぽさ。団令子は、奔放な娘の役なので、体当たりの激しい演技。両女優の熱演が見所で、森繁の芸達者がかすむ程だった。森繁と団は、本作では父娘だが、同年7月公開の「裸の重役」では、団が重役の森繁を慰めるコールガール役で共演している。【神保町シアター:「生誕110年 森繁久彌~国民的名優“モリシゲ”の泣き笑い人生譚」】

2020/02/28

2020/03/02

-点

映画館/東京都/シネマヴェーラ渋谷 

『沙羅の門』。琵琶湖(和邇)、京都付近が舞台。お寺さんの子供・千賀子(団令子)が主人公。ヒロインは男に惚れやすいタイプ。下宿の部屋にナットキングコール「セントルイス・ブルース」のLPが飾られている。禅宗のお寺では、住職の奥さんは籍を入れないものらしい。茶の間のテレビには布カバー。

2020/02/27

2020/02/27

75点

映画館/東京都/シネマヴェーラ渋谷 


体質改善が必要だった宗教界

本作の舞台となる禅宗の寺では妻としての外見上の体裁はあっても、正式な婚姻関係を結ばないのが半ば戒律化していることが終盤にクローズアップされます。

後妻として昌福寺の住職承海(森繁)と再婚した八千代(草笛)を姉と慕う千賀子(団)は京都の大学に入学・下宿し、学生や会社員などとの関係を重ね、二人を心配させるものの、ドライに物事を進めようとして、父親との関係は最悪になり、八千代は仲介に苦労します。古い因習に絡められている寺の中の家族関係、そして檀家や本山といった関係団体とのしがらみといった目に見えない束縛で、マイペースを貫くような森繁のキャラでも打破は困難で、娘の品行問題もあって悩ましい限りの男のありようを、いつものように森繁らしい情味あふれる演技で見せてくれます。しかしその和尚も交通事故であっけなく他界し、残された女二人。明るく妻と母の二役をこなしてきた八千代と、姉(義母)を拠りどころとするしてきた千賀子の立場の弱さに、永年にわたる宗教界の独善性が醜く重なります。

この作品から55年経過した現在、改善はされているのか大いに気になりました。

2018/12/24

2019/05/23

60点

映画館/東京都/ラピュタ阿佐ヶ谷 


水上勉原作らしい官能的な描写

ラピュタ阿佐ヶ谷の草笛光子特集「沙羅の門」は、約10年前神保町シアターの久松静児特集で観て以来で、森繁扮する生臭坊主の印象が強いので彼が主役かと思ったら、クレジットのトップは団令子と草笛でした。水上勉原作らしい官能的な描写の多い映画ですから、女優がトップで当たり前でした。