ネリカン、愚連隊…1960年代の東京近郊の風景が甦る
壷井栄の小説『どこかでなにかが』が原作。
両親を亡くして次女が母親代わりに弟妹の面倒を見ている、サオトメ家ではなくソウトメ家の物語。
中学生の長男が不良仲間に誘われてオカアサンがヤキモキするという話を軸に、三女の恋愛話と行かず後家のオカアサンの縁談が絡む。
ネリカン、愚連隊、歌声喫茶と懐かしい言葉が並び、当時の東京近郊の庶民生活の風景がまざまざと甦る。所作や会話、表情などの細かい演技までを丹念に演出する、久松静児らしいリアリズムが大きな見どころ。チョイ役の松村達雄の巡査、ネリカン少年、トラックの青年、汁粉屋の小母さんも当時の空気を呼び覚ます。
美人姉妹の次女を香川京子、三女を白川由美、四女を田村奈巳、長女を津島恵子が演じるが、誠実だが不器用な次女役の香川京子と、おきゃんで可愛い四女役の田村奈巳がいい。
質素な生活の中で両親を失った姉妹が互いに支え合いながらもそれぞれの幸せを願う姿が今から見ると羨ましいほどに清々しく、そうした懐かしき良き時代への郷愁を感じさせてくれる作品で、弟の担任教師(小林桂樹)が早乙女家に寄宿して、弟の更生と次女との結婚を予感させる予定調和のラストシーンも、むしろ心が和むハッピーエンドとなっている。