ベトナム脱走米兵という化石化した現代史の断片を描く
ベトナム戦争時、岩国基地から脱走した若い米軍兵士の逃亡を描くドキュメンタリー・タッチのドラマで、実話に基づく。
バーの馴染みのホステス(李麗仙)のアパートに匿われ、脱走兵援助組織によって支援者の日本人家庭を転々とした後、籠の鳥の生活に嫌気がさし、長距離トラックをヒッチハイクして京都へ。頼る者もなく野宿を重ねていたところを再び脱走兵援助組織に保護され、岩国に戻る。
脱走兵として脱走兵援助組織に組み込まれて利用され、ベトナム反戦運動の広告塔となるか。それとも、米軍に戻って内部からの改革に取り組むか。脱走兵が後者を選び、岩国基地に出頭するところで映画は終わる。
もっとも米軍内部からの改革といっても良心的兵役拒否が軍法違反にならないようにするといった程度のもので、そこに日本の反戦運動と脱走米兵との間に意識の大きな溝があり、それが数週間に及ぶ米兵の迷走に繋がっている。
公開から半世紀経てば、脱走米兵の事件も遠い記憶の彼方にあり、まして事件を知らない者が見ても何のことやらさっぱりわからないという賞味期限切れの作品。今では良心的兵役拒否は普通のことで、言葉そのものが死語になっている。
化石化した現代史の断片としての歴史的価値もあるのかないのか…ただ李麗仙の崩れた水商売の女ぶりが名演で、いちいち語尾に「ね」が付く英語がまたいい。
支援者の日本人家族に、北村和夫、小林トシ子、観世栄夫、中村玉緒、小沢昭一、黒柳徹子。脱走兵援助組織メンバーに井川比佐志、田中邦衛。トラック運転手に加藤武とバラエティ豊かなのが見どころか。(キネ旬9位)