新文芸坐の松方弘樹追悼特集、初めて観た「不良街」は、松方が安部徹とその子分・植田灯孝に斬り込み植田を殺して刑務所に入っていた5年の間に、縄張の新宿は安部の組と関西から来た今井健二の組に牛耳られている中、松方は弟分の谷隼人や刑務所仲間の山城新伍と暴れ回る話ですが、話の中心線がブレまくり、取り散らかった凡作です。
「不良街」は細かな描写が粗雑極まりなく、例えば、松方弘樹らが今井健二を脅すため今井の息子を誘拐しようとして、松方の弟分である谷隼人が彼女・津々井まりと今井宅に行く場面、谷はいきなり彼女とイチャつき始め、そこに都合よく今井の息子のサッカーボールが転がってきて誘拐に成功するのですが、イチャつく必要は全くないのであり、無駄な場面だったと思うばかりです。
また、今井健二の組はキックボクシングジムをやっている設定なので事務所にリングがあるのですが、その事務所を舞台に松方、安部徹、今井の親分である天津敏らが一堂に会する場面で、なぜか主要人物らが次々とリングに上がって芝居するのですが、リングに上がる必要は全くないのであり、バカに見えるばかりです。
「不良街」の脚本は、東映大泉で数多くのコンビ作がある松本功と山本英明ですが、深作と組んだ映画では見事な仕事をする彼らが、こんな粗雑なホンを書くとは思えず、演出の野田幸男がこねくり回したのではないかと想像します。
この映画は、松方弘樹が大映へのレンタル移籍を終えて東映にカムバックした最初の主演作で、さぞや気合を入れて撮影に臨んだのだろうと推察しますが、こんな脚本では出鼻をくじかれたのではないでしょうか。