当時の空気が分からないと理解しづらいし、当時の評価が高かったことも疑問になってしまう
ネタバレ
親が与えたスナックで働く青年が、父親を刺し殺したことをきっかけに、自分を縛ってきた現実から逃れようする。
話は車を親に取り上げられ実家に直談判へ行ったところから始まる。大型車両のタイヤ交換・販売業を営む実家の両親は、青年を歓迎する。車を取り上げたのは青年を呼び寄せるためのワナだった。スナックで同棲する恋人と別れろと言う。
母親の買い物中にかっとなって父親を刺し殺してしまった青年は、最初は冷静でまともだ。買い物から帰宅した母親に「警察へ連絡する」と言う。
しかし、母親がこの殺害に乗ってくる。今のような貧しい生活はもう嫌だ。2人でどこかへ行って新しくやり直そう。できないなら一緒に死のう。(この辺の母親役の市原悦子の鬼気迫る演技がすごい。並のホラー映画では太刀打ちできないほどだ。)
恐らく青年は自分の望みが分かっていなかった。親が与えたスナックを幼なじみの恋人と暮らす日々を送っていただけだ。それが母親の「2人でどこかで…」で気付く。彼こそ、今の現実から出て行きたいのだ。それゆえに母親の命も奪う。
さらに恋人からも逃れようとする。
だが、恋人は別れを拒み、ついてくる。両親の死体の始末を手伝う。青年は恋人という現実からも逃れられなくなっている。もう彼には自ら命を絶つことしか残されていない。しかし、失敗に終わる。
1976年の作品。この作品は当時の空気が分からないと理解しづらいし、当時の評価が高かったことも疑問になってしまう。
この頃は、学生運動が影をひそめ、若者はシラケ世代と呼ばれながらも既成の制度や規律には反発を抱き、しかし同時に無力感をどこかに抱えていた。
そんな時代の青年がどこかに、多分 無意識に抱えていた現実から脱出したいという欲求に気付く。しかしそれは両親の殺害というあってはならないことが発端で、その行く先には暗闇しか見えない。荷台に青年が乗り込んだトラックが暗い道を去って行くラストに暗示されている。