監督は「天城越え」で鮮烈デビウした三村晴彦。脚本には野村芳太郎・三村晴彦・仲倉重郎・加藤泰の四名が名を連ねてゐます。音楽は鏑木創。
真田広之・名取裕子といふ若手を前面に出した作品。真田が演じるのは夜の盛り場でタクシーの誘導をして、バアやクラブの客を送る商売をするジョ―と呼ばれる男。
もう一人、高速道路の料金所の職員・平幹二朗がゐますが、平と真田の共通の仇が、相互銀行社長の三國連太郎。表向きは「人類信愛」などを標榜する人格者を演じてゐますが、実態は政財界やマスコミと通じ私腹を肥やす真黒な奴。その内幕を暴かんとするのが、記者の渡瀬恒彦。
平はかつては大企業の役員でしたが、ライヴァル夏八木勲との派閥争ひに敗れ、現職に転身しました。平のかつての愛人で銀座の高級クラブ「ムアン」のママ・吉行和子が殺される事件が発生します。その後釜のママが名取裕子で、偶然知り合つた真田とは、同郷(新潟)といふ事もあり、忽ち恋愛関係に。早過ぎます。ここで彼は、父が三國に嵌められて死んだ過去を告白します。
三國は佐藤允を傀儡とし、政治面で根上淳、経済面で夏八木勲、マスコミ面では米倉斉加年を牛耳つてゐますが、役に立たなくなつた夏八木を棄てます。追ひ詰められた夏八木は全てを暴露した遺書を残して自殺します。平幹二朗あての遺書もあり、これで三國を打ち取らうと真田に協力を呼びかけるのでした......
清張ものらしく、悪い奴らで満載です。復讐ものなのに、感情移入できないので、目的を成就しても爽快感はありません。多分本筋は平幹二朗の復讐譚だつたのが、無理矢理真田+名取の物語を挿入した感じなので、少し不恰好な脚本になつてゐます。
その中でも、三國連太郎の怪演が目立ちます。粗にして野だが、さらに卑でもある、兎に角下品な権力者を表現して余すところがありません。も一人卑だつたのが、意外にも記者の渡瀬恒彦でした。正義の為に事実を追究するのではなく、入手したネタで三國を強請る。これでは消されて当然です。僅か600万円で命を落しました。
ストオリイに一本の太い幹のやうなものが無いので、最後の感動も薄いのでした。興行的にもうまくいかなかつたやうで、そのせいかどうか、本作の公開後、ほどなく霧プロダクションは解散します。同時に、本作まで毎年のやうに製作されてきた松本清張作品の映画化も本作を最後に途絶えます。次の作品までは2009(平成21)年の「ゼロの焦点」リメイク(犬童一心監督)まで、何と25年の時間を要するのでした。
※その他
◎テツ要素としては特急「加越」などが登場。当時はエル特急なるものが跋扈し、特急の質的低下が叫ばれてゐました。実質新快速の有料化みたいなものです。「加越」なんてネイミングも詰らない。
◎相互銀行の第二地銀に移行する時代背景。地元愛知県でも「名古屋相互銀行」「中央相互銀行」「中京相互銀行」が夫々「名古屋銀行」「愛知銀行」「中京銀行」となりました。
◎ワルどもが集まりエロビデオを見る場面は、「無修正本番だ」などと云つて皆高校生みたいにソワソワしてゐます。自由に裏映像が見られる現在からすると、この反応はそのタイトル通り「驚愕」であります。