➊悲劇の天才映画監督、セルゲイ・パラジャーノフ(1924-1990)の長編第一作にして、出世作となった『火の馬(1964)』は39歳の作。
そして遺作となった本作は63歳の作。
➋本作はロシアの詩人ミハイル・レールモントフのお伽話をもとに、パラジャーノフ監督が描いた恋物語。
貧しく心優しい吟遊詩人のアシク・ケリブは、富豪の娘マグリに結婚を申し込むが、父親に反対される。
彼は1,000日の後に必ず帰ると彼女に約束し、困難が待ち受ける旅へ出かけ、様々な苦境を乗り越えて立派な人間に成長する。
旅の終盤で白馬に乗った聖人から「恋人が望まぬ相手と結婚させられる」と聞いて、一日に千里を走る聖人の白馬を駆って舞い戻り、恋人と結ばれる。
悲劇が多い彼の作品の中で、珍しいハッピーエンドなので、気分が良い。
➌『火の馬』が12の章から成っていたように、本作も21のエピソードから構成されている。
「愛している、愛していない」、「婚約の儀式」、「詩人の苦悩」、「青いチャペルでの誓い」、「金を稼ぐための旅」、「わずらわしい道連れ」、「馬で行く者は友人ではない」、「詩人の死を嘆くひとびと」、「善良なひとびと」、「隊商の道」、「詩人の擁護者」、「アリズとヴァリ」、「ナディル将軍の領地」、「隊商宿」、「ナディル将軍の復讐」、「好戦的なスルタン」、「汚された修道院」、「唯一の神」、「アシクの祈り」、「白馬の聖者」、「恋人の父への挨拶」。
❹多くのエピソードと映像は、『千夜一夜物語』のエキゾチックな絵物語を見ているようで、実に楽しい。
物語にも共感出来る。
❺唯一残念だったのは、歌に翻訳字幕が付けられていなかったこと。
歌詞の意味が分かれば、更に楽しめたことだろう。
❻最後に、「この映画を亡きタルコフスキーに捧ぐ」と書かれた一文が表示された。
パラジャーノフは、アンドレイ・タルコフスキーの『僕の村は戦場だった(1962)』に強い影響を受けたと言われているが、これを裏付けるものだろう。