「ラリー・モンテカルロに出場する。終わったら、モンマルトル15 40へ」
擦りに擦った作品の感想を書くのは結構難しい。「味噌汁ってなんで美味しいんですか?」と訊かれてもほとんどの日本人は「そこに味噌汁があるから」といったようなことしか答えられないだろう。それと同じだ。そして本作もいわゆるひとつの味噌汁なのである。さあ困ったぞ。
男から観れば、アヌーク・エーメを拝む至高の102分間であり、女から観れば、気まぐれなトランティニャンに委ねる至福の102分間。この極上の時間は偶然の掛け合わせによって生まれたと言っていい。
製作当時、クロード・ルルーシュは全くの無名監督だった。思うように製作資金が集まらず、カラーフィルムで全てを賄えなくなったためにやむなくモノクロフィルムも集めることになる。せっかくそれまでに用意したカラーフィルムも破棄するのは惜しいということで、ここに常識破りの"カラー・モノクロ混在"作品が生まれた。
また、フランシス・レイは劇伴候補として15〜20曲ほどルルーシュのもとに持ち込んで聴かせた。どれも自信作だったが、ルルーシュは首を縦に振らない。そんなこんなでヤケクソになったフランシス・レイはおふざけで作った曲も聴かせることにした。
レ「もう、ムチャクチャにしたれ!」
ル「ええやんか、これよ。おーん」
言い回しはともかくこんな流れで曲をつけた。結果はご存知の通りで、本作と切っても切れないくらいトレードマークとなった。
劇中、歩調を合わせてドーヴィルの海岸を散歩する老人と犬が度々登場する。レンブラントの絵画よりも素敵な光景だ。この光景をフィルムに収めたのは、時流と歩調を合わせることを拒んだ若い才能達だ。終盤、犬は老人の手元を離れてドーヴィルの海岸を野生に戻ったかのように走り回る。バックにはテンポを上げたフランシス・レイのスコアが流れていた。