『許されざる者』
Unforgiven
マルパソ・カンパニー
ワーナー・ブラザース
USA
1992
キッド「信じられねえ。アイツは二度と息をしねえ。死んだなんて。もう一人もだ。引き金を引いただけで」
ウィル「殺すってのは恐ろしい事さ。人の過去や未来を全て奪ってしまう」
キッド「連中は自業自得さ」
ウィル「俺たちも同じだ」
ワイオミング準州の町ビッグ・ウイスキーの娼館でカウボーイが娼婦をナイフで切りつけた。顔や胸を散々切りつけた。理由は彼の性器のサイズを娼婦が笑ったから。
二人のカウボーイは拘束されて保安官リトル・ビル・ダゲッド(ジーン・ハックマン)が呼ばれた。通常なら鞭打ちの刑だが、保安官は馬6頭を提供する事で鞭打ちせず釈放した。女性、さらに娼婦の被害だから軽く扱われてしまった。
気が収まらない娼婦達は稼いだ金を集めて1000ドルの賞金を掛けて二人を殺害する人間を募集する。広告手段は口コミ。娼館を訪れるカウボーイ達に伝えて広めていった。
無力な人が腕の立つ人間を雇う。『七人の侍』みたい。
20歳そこそこの若者スコフィールド・キッドが養豚を営むウィル・マニー(クリント・イーストウッド)を訪れる。二人のカウボーイを殺して賞金1000ドル山分けを持ちかける。マニーは10歳に満たない男の子と女の子と暮らしている。妻クローディアは天然痘で亡くなっている。豚は病気にかかり農場は破綻寸前だ。
一度は誘いを断ったウィルだったが子供のたちの将来のため賞金首を追うことにした。
ウィルはかつては酒浸りで女子供も殺す無法者だった。クローディアと結婚して酒をやめてガンマンをやめた。
銃の腕も落ちたし馬にもなかなか一回で乗れない。そこで古い友人でスペンサーライフルの名手ネッド(モーガン・フリーマン)を誘ってキッドの後を追ってビッグ・ウイスキーを目指す。
鉄道会社に雇われて反抗する中国人を20人以上殺したと噂のイングリッシュ・ボブ(リチャード・ハリス)は保安官に武器を取り上げられて散々暴力を振るわれて人の足元を見た嫌がらせをされて街から追放される。
数を頼みに一方的に正義の名の下に底意地が悪い暴力を振るう保安官。しかし彼にも自分でコツコツ家を建てる夢がある。
かつては酒を飲んで子供まで殺したが妻と結婚して酒をやめて真面目に暮らすウィル。
人間は善と悪にクッキリと線引きできない。
脚本はデビット・ウェッブ・ピープルズ。ハンプトン・ファンチャーが執筆に行き詰まっていた『ブレードランナー』の脚本を引き継いで完成させた事で知られる。原作者フィリップ・K・ディックはピープルズの脚本にも否定的な見解だったけど。(原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』からは登場人物の名前と「アンドロイドを追う刑事」という設定しか共通項が無かった)
ピープルズが『許されざる者』の脚本を完成させたのは1984年。コッポラ監督、ジョン・マルコヴィッチ主演で映画化の企画が立ち上げられたが実現しなかった。イーストウッドは映画化権を手に入れたが自分の年齢がウィルの年齢になるまで10年間近く温めていた。
ウィルは途中で保安官に痛めつけられて娼婦達に匿われて体力を取り戻す。黒澤明『用心棒』、それを元にした『荒野の用心棒』にも同じ様な場面があった。
ウィル「君は俺みたいに醜くない。たまたま傷があるだけだ」
顔を切られたデライラと心を通わせる場面でなぜか胸が熱くなって泣きそうになった。ただでさえ辛いセックスワーカーなのに顔まで傷をつけられたデライラ。
法律を司る保安官が恣意的に法を運用して街を支配する。公正な裁判など存在しない世界では暴力には暴力で立ち向かうしかないという矛盾。
イーストウッドは最新作『陪審員2番』でも法律が正義の名の下に振るう暴力を扱った。
・ジーン・ハックマンの演じるリトル・ビル保安官は数を頼んで相手を手も足も出ない様に牢獄の中に閉じ込めで心理的な虐待をしたり人間的に嫌な奴を好演。イーストウッドはハックマンにロス市警のダリル・ゲイツ本部長をモデルに演ずる様依頼した。SWATを設立し警察官を武装化して黒人に不当に威圧的、人種差別的な警備活動を行なってロス暴動を起こした。
・字幕で「賞金稼ぎ」と訳されている言葉はBounty hunterではなく、Assasin だった。「殺し屋ども」という侮蔑的な響きがしますね。