映画本大賞 2015

2015年に出版された映画関連書籍は700冊あまり――。
見てから読むか、読んでから見るか。
映画と映画本は切っても切れない仲である。
書店員の投票による本屋大賞が出版業界を盛り上げるなか、『キネマ旬報』はこの年のNO.1映画本を選出。
映画評論家、編集者、芸術書棚を担当する書店員など、映画本を知り尽くす24人によるベスト・テンをご覧あれ。

book 第1位

映画的な、あまりに映画的な 日本映画について私が学んだ二、三の事柄(Ⅰ)

山田宏一/ワイズ出版/1400円+税
ブックデザイン:田中ひろこ

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まるで映画を見ているようだ! まるでそこに監督や俳優がいるようだ! すぐに映画が見たくなる! 伊丹、小國のシナリオ作法、山中、熊谷、伊藤、衣笠の時代劇論、小津、溝口、成瀬、清水、黒澤ら巨匠の作品論から市川、今村たちの映画へのこだわり……。

映画の基本「一スジ、二ヌケ、三ドウサ」「完全主義と間に合わせ」をテーマに、日本映画の面白さをとことん語った、山田宏一の“日本映画の粋を味わいつくす”新鮮かつ大胆な日本映画論!

book 第2位

ルビッチ・タッチ

ハーマン・G・ワインバーグ(著)、宮本高晴(訳)/国書刊行会/4500円+税
装幀:山田英春

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粋で軽妙洒脱な艶笑喜劇の名匠ルビッチに関する本は驚くべきことにこれが本邦初となる。「極楽特急」「ニノチカ」など、今なお宝石のごとく輝く数々の傑作をものした天才監督の緻密な評伝と脚本家インタビュー、当時の批評や関係者の証言、そして豊富な写真図版で「ルビッチ・タッチ」を解き明かす。

特別寄稿として90枚に及ぶ山田宏一の評論と、原書にはないフランソワ・トリュフォーのエッセイが収録、日本語版が世界で最も完全版となる作りだ。

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book 第3位

映画の荒野を走れ プロデューサー始末半世紀

伊地智啓(著)、上野昻志、木村建哉(編)/インスクリプト/3500円+税
装幀:間村俊一

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手掛けた映画は約100本、「撮影所以後」を担った名プロデューサー伊地智啓が日本映画の転換期を語り尽くす。

日活撮影所の気風、ロマンポルノの内幕、キティ・フィルムやアルゴ・プロジェクトの実情、デビューから葬儀まで付き合った相米慎二との破格な日々。
「『太陽を盗んだ男』の現場はまるで廃墟だった。廃墟に一人残った馬鹿がいた。それが相米だった」。巻末に黒澤満との盟友対談。読み始めたらノンストップ、秘話満載の一冊。

book 第4位

黒澤明 樹海の迷宮 映画「デルス・ウザーラ」全記録1971~1975

野上照代、ヴラジーミル・ヴァシーリエフ、笹井隆男/小学館/4300円+税
装丁・本文デザイン:ササイデザイン

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巨匠・黒澤明のアカデミー外国語映画賞受賞作「デルス・ウザーラ」。名作と呼ばれながら今まで謎に包まれてきたこの作品の深部に、大胆に切り込んだファン必読のドキュメンタリー。

零下35度を下回る過酷な撮影現場、頻発するフィルム事故、日ソスタッフの確執。退路無きシベリアの樹海で、数々の障害が巨匠を容赦なく襲う。多くの初公開資料から描かれる、苦悩し煩悶する黒澤の赤裸々な姿。あなたはついに人間・黒澤明に肉薄する!

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book 第5位

映画探偵 失われた戦前日本映画を捜して

高槻真樹/河出書房新社/2500円+税
装丁:岩瀬聡

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いつのまにか消えてなくなってしまった戦前の日本映画作品。1945年の敗戦を境に断裂があるのか? それとも?いったい誰がどうやって、捜し出すのか。

そうして戦前映画に心奪われフィルムを捜す「映画探偵」たち――フィルムセンターや大学などの法人機関から個人コレクターまで――のユニークな活動とドラマを取材した初めてのドキュメント!
フィルム発掘をめぐる思いがけない人間ドラマとスリリングな経緯が分かる、日本映画史の貴重な記録。

book 第6位

アンドレ・バザン 映画を信じた男

野崎歓/春風社/2300円+税
装丁:細野綾子

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トリュフォーを監督として育て上げ、ヌーヴェル・ヴァーグの精神的な父と評価されている批評家アンドレ・バザン。

本書は、「市民ケーン」の是非をめぐり哲学者サルトルとの間で行われた論争を当時のまま再現しつつ、写真の複製能力に映画の基礎を見出したバザンの理論を詳説。

さらに現代台湾映画、宮崎アニメを例に、没後50年を経た現在でも彼の美学がスクリーンの中に脈打ち、時代やジャンルを超えて映画的リアリズムが拡大しているさまを明らかにする。

book 第6位

捜索者―西部劇の金字塔とアメリカ神話の創生―

グレン・フランクル(著)、高見浩(訳)/新潮社/3400円+税
装幀:新潮社装幀室

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スピルバーグ、ルーカス、スコセッシが惚れ込み、ゴダールがむせび泣いた傑作西部劇はいかにして生まれ、アメリカの神話となったのか。

19世紀に実際に起きた少女拉致事件を調べ上げ、奪還された少女が産んだ息子クアナの数奇な運命をたどり、西部開拓史における「神話的悲劇」となった事件の真相を追う。

さらに名匠ジョン・フォード監督がこの物語を西部劇屈指の作品へと昇華するまでを克明に描いた全米話題のノンフィクション大作。

book 第6位

チャップリンとヒトラー メディアとイメージの世界大戦

大野裕之/岩波書店/2200円+税
装幀:岩波書店製作部

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1889年4月――20世紀の世界で、最も愛された男チャップリンと、最も憎まれた男ヒトラーが、わずか4日違いで誕生した。やがて、同じチョビ髭がシンボルとなった二人は、歴史の流れの中、その才能とそれぞれが背負う歴史・思想を巨大なうねりとなし、激突させる。

知られざる資料を駆使し、映画「独裁者」をめぐるメディア戦争の実相、現代に連なるメディア社会の課題を、スリリングに描き出した力作。2015年度サントリー学芸賞〈芸術・文学部門〉受賞。

book 第9位

映画の戦後

川本三郎/七つ森書館/2200円+税/
装幀:折原若緒

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2014年末、「やくざ」を演じてきた高倉健と菅原文太が相次いで亡くなった。

同時代のアメリカでダーティ・ヒーローを演じてきたクリント・イーストウッドは、戦争をテーマとした新作を発表。
小津安二郎作品のヒロインである原節子の瞳から消えない悲しみ、昭和20年代の日本人が夢中になったリベラルなハリウッド映画、戦勝国アメリカを揺り動かした赤狩りとヴェトナム戦争──敗戦から70年を迎える今、川本三郎氏が綴る日本、そしてアメリカの戦後映画史。

book 第10位

映画とは何か(上・下)

アンドレ・バザン(著)、野崎歓、大原宣久、谷本道昭(訳)/岩波書店/1020円+税(上) 840円+税(下)
装幀:岩波書店製作部

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アンドレ・バザン(1918-58)はフランスの映画批評家。サイレントからトーキーへの移行に際し批評の分野で新時代を開き、自ら創刊した『カイエ・デュ・シネマ』で健筆を振るった。

本書は彼の映画理論・批評の集大成の書。上巻にはモンタージュの拒絶、映画と演劇の関係など映画における〈現実〉とは何かを追究した論考を、下巻には典型的なアメリカ映画である西部劇や映画とエロティシズムに関する考察、イタリアのネオレアリズモを擁護した論考を収録。

book 第10位

満映とわたし

岸富美子、石井妙子/文藝春秋/1600円+税
装丁:関口聖司

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伝説の女優、原節子や李香蘭と同い年の大正9(1920)年生まれで、女性映画編集者の草分けであり、「満映」(満州映画協会)の最後の生きた証言者でもある岸富美子。

歴史に翻弄されながら波瀾万丈の生涯を送った彼女が残した、キネマの世界についての言葉を
もとに、ノンフィクション作家・石井妙子が国策映画会社「満映」の実態を描き出す。

石井の聞き書きと解説によって構成された、95歳の映画人が語る戦後70年の貴重な証言本。

 選出者の24人の選評、12位以降のランキングなどの詳細は…
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